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番外編
第160話『甘苦いティラミス』
しおりを挟む「理由はですね?」
呼び出し用の鈴を鳴らすと、扉が開いて……出てきたのは、メイドとかじゃなくて女の子。
可愛らしいワンピースを着た……アイシスさんだったんだ!?
「え!?」
「アイシス……いつから?」
まあ、俺もだけどミュラーもめちゃくちゃびっくりしてた。身内の屋敷だから居てもおかしくないけど、なんでこの場にいるんだろうって。
アイシスさんが、ちょっと俯いてた顔を上げたら……真っ赤っかって言うくらいに顔が赤かった。
「あ……義姉上のところに来たのは、たまたまでした。けど、まさか……ミュラー殿が、その」
「ふふ。ちょっと隠れて欲しいとお願いしたのは私です。アイシスさんからも、ご相談されていたんですよ」
「あ、義姉上!?」
「相談?」
「なんの?」
「この流れで聞いちゃいます?」
タイミングが良過ぎる展開。
それに加えて、アイシスさんの態度。
とくれば……と、ミュラーの方をチラッと見たら、思いっきり顔を赤くしていた。まあ、俺より早く理解したんだろう。
「……あの。イツキさん」
ミュラーには自信の無い表情が消えていた。つまりは、理解したんだろう。アイシスさんがここに居ることとか、相談内容とかを。
俺やイツキさんを見てきた瞳には、力強い炎のようなのが宿っているように見えた。
「ええ。この場はお貸ししますよ? エリオさん、ちょっと厨房に行きましょうか?」
「行く行くー!」
「あ、義姉上!?」
「大丈夫です。あとは勇気だけですよ?」
と言うことで、お邪魔虫の俺とイツキさんは退場ということになり、本当に厨房に行くことになった。
「いや~? まさか、とは思ってたけど」
アイシスさんも、ミュラーを気にかけてたとはちょっと予想外。でも、ミュラーにとっては嬉しいことだ。親友の恋がうまく実るなら嬉しく無いわけがない。
「ふふ。私は今日もですが、前々から相談されていたので。今日はわざと鉢合わせるようにしたんです」
「イツキさん、意外と策士だね?」
「いえいえ。さて、お祝いも兼ねて、ちょっと簡単に出来るケーキを作りましょう」
「お? 俺手伝って良い?」
「もちろんですよ。二人の方が早く出来ますし」
今頃、ミュラーはきちんとアイシスさんに告白したのか……は、多分大丈夫だけど。俺は俺で祝いのケーキをイツキさんと作るのを楽しむことにした。
『ティラミス』って、コーヒーとクリームチーズをメインに使ったちょっとほろ苦いそれは、甘々なミュラー達を落ち着かせるのにちょうどいいんじゃないかって。
実際、戻ったら……こっちが気恥ずかしくなるくらい、甘ったるい雰囲気で腕組みしやがってたんだから!!
俺も恋人欲しいけど……こんな甘々な雰囲気作れる自信ないなあ。全員でティラミス食べたけど、こってりしてるのにコーヒーの苦味で後味さっぱり。
傍観してるだけの俺には、ちょっとぴったりの味わいだった。
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