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番外編

第137話 男は役立たず

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 まさか、臨月間近だとバスク医師から先日診断を受けたと言うのに。

 その日が、今日だと俺もだがイツキも思いもしなかっただろう。俺は内心ひどく慌ててはいたが、事前に母上や父上に対処方は叩き込まれていたので……なんとか動くことは出来た。使用人らに指示を出すだけだが。


「では、皆様はこちらで」


 産婆にそう言われてしまった時には、応接間で俺は隊長とレクサスと待つしかなかった。

 出産は女の戦場。そこに男は極力入り込めない。医師は別だ。


「うぉお! とうとうやんなあ」


 産婆が去ってからすぐに、レクサスは気が高まったのか興奮した表情となった。隊長の少し頬が赤くなっていたので、似た心情なのだろう。

 だが、俺は。

 興奮どころか、イツキの心配ばかりしてしまう。あのように、痛みを堪えてまで出産に挑まねばならない……女の戦いを側で見られないだなんて。

 親となるのに、なんと俺は情けないのか。母上から一応聞いてはいたが、万が一母親の方が命を落とすかもしれないと聞かされていた。その衝撃的な事実を知った俺は、イツキにも告げたが本人も知っていたようで……彼女からは、『大丈夫です』『赤ちゃんと一緒に生きます』と何度も何度も俺を支えてくれた。

 だが、現実となると。

 その支えも、岩が崩れる勢いでガラガラと壊れていくようだった。男はなんと情け無い存在なのだろうか。


「しっかりしなさい、アーネスト」


 いきなり背中に衝撃があった。

 レクサスではなく、隊長が俺の背中を強く殴ったのだ。びっくりした勢いでよろめき、床の上で膝をついてしまった。隊長は気にせずに、俺を見下ろしながら息を吐いた。


「イツキが心配なのはわかりますが、父親となるきみが弱気でいてどうするんですか? 側にいてあげられないのは仕方ないですけど、気をしっかり持ちなさい」


 さすがは、殿下の婚約者。

 その期間をどれだけ待つかと言う覚悟を持っている人物の言葉は、痛んだ背中にさらに重みをかぶせるように感じた。

 あと十年くらい、この方は子を成せないのだ。殿下がいくら、中身は成人の女性の魂を持っていても。身体は子どもなので、誰も許せない状況。

 それに比べれば……俺はとても恵まれているのだ。

 今日まで、イツキは出産のために対策はしてきた。俺も支えれる部分は頑張った。

 心配はまだ大きいが……それらを無駄にしてはいけない。

 俺は、彼女へ祈りが届くように……久しぶりに本気で神への祈りを捧げたのだった。
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