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番外編

第112話『初パイナップル』

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「……まあ!?」


 ゼリーの固さは他と同じだけれど。

 果物の固さはいちごやキウイとも全然違うわ。シャクっとも違うし、サクッとでもない。けれども、その独特の食感と共に舌の上で感じられる甘酸っぱさが……私はとても好みだった。

 何故なら、レモンやキウイと比較しようがなく……甘くて少し柔らかいのに固いという味わい。こんな果物が存在していただなんて、驚きで済まないわ!?


「ふふ。気に入られました?」


 イツキは私の様子を見ても、ニコニコと微笑んでいるだけ。この反応を予想していたのだろう。


「とっても美味しいわ。こんな果物があっただなんて」

「パイナップルは、食用ではあったようですが。こちらでは下ごしらえだけの材料だったそうです」

「? あら、西方大陸ではそんな扱いだったの?」

「はい。私は故郷だと普通に食べていたので知っていましたが、イージアスでは肉の柔らかさを引き出すための食材だったとか。お城では、ワルシュさんに聞けばわかると思いますが」

「先輩が……是非、王族の食卓にも出して欲しいわ」


 こんなにも美味しいんですもの。陛下もきっと喜ばれると思うわ。もうすぐ、学園の宿舎に戻るリュシアにも知って欲しい。この美味しさを知れば、学園での食事改善にも繋がると思うの。

 イツキの友であるあの子なら、その意欲をきっと発揮してくれると思うわ。


「いいですね。パイナップルはゼリーだけじゃなく、そのままでもいいんですが、ジュースにしても美味しいですよ?」

「ジュースに?」

「柑橘系とは違う、甘酸っぱさがクセになると思います」

「……今頼むことは出来るかしら?」

「いいですね。私も飲みたいですし、少しだけならジェラルド様にも大丈夫かと」

「お願いするわ」


 そして少し待つ間に、他のゼリーを美味しく食べていたのだが……どれもこれもすごく美味しい。デザートってケーキやクッキーが普通だったのに、これは嬉しいわ。イツキが前に作ってくれたプリンと同じように、風邪の時にもいいかもしれない。

 と、素直な感想を告げると。


「いいですね。ゼリーに薬を包んで食べさせる方法もありますよ。お子さんにはいいかもしれません」

「あら、それは素敵」

「ただ、ゼリーの素になる材料調達が少し難しいんですよね?」

「どういうものなの?」

「豚の皮を煮詰めたものか、海藻を煮出した汁です」

「……それで?」

「ええ」


 そこまで料理に詳しくないから驚いてしまったけれど……奥深いわね。

 イツキが言うに、海藻の方が作りやすいので。それをワルシュ先輩にお願いするように、メイドへ通達をお願いしたわ。その後に、パイナップルのジュースをいただくことが出来たのだが。


「美味しい!」


 ゼリーよりも濃厚な甘酸っぱさが病みつきで……私だけじゃなく、ジェラルドもごくごく飲むほどだった。イツキが教えてくれる料理や材料は、魔物肉もだけど……このように普通の食材でも美味しく口に出来るのだから、とても嬉しい。

 ただ、パイナップルそのものを見た時は……ゴツゴツした見た目過ぎて、食べれる部分があるか疑いかけたわ。
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