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番外編

第84話『囲んでおはぎを共に』

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 このお屋敷に仕えることとなってから、変わった習慣があります。

 普通の貴族の方々でしたら、主人と使用人は食事が別々とされているのですが……奥様は生来の貴族ではいらっしゃらないですので、使用人達と一緒に食事をするのを好まれていらっしゃるのです。

 最も、御子がまだお産まれでいないせいもあるのでしょう。おひとりだけでは寂しいとおっしゃっていました。だから、我々使用人は従うまでです。

 おはぎの皿を、集まってきた使用人の分も用意したのですが……ほとんどの者が食べたことがないので、不思議そうに眺めていました。


「……奥様。こちらは?」


 メイド頭が挙手して聞くと、奥様はにっこりと笑顔になられました。


「おはぎと言うお菓子です。外側が、小豆ロッシを甘くにてなめらかにしたものを。内側はお餅というもちもちしたものです。茶色のも味わいが違いますが、似た感じですね。ちなみに、王族の方々にも振る舞ったことがあって、皆さんお気に入りですよ」

「「「「えぇ!?」」」」


 皆が驚くのも無理がありませぬな。見ただけだとクッキーともケーキとも違うお菓子が、王族の方々のお気に入りだとは思えません。

 しかし、このお菓子の一部は私めも味見しましたからな。きっと、美味に違いありません。


「……では」


 奥様からいただくのが普通ですが、今回は私めやキルトが先に食べて欲しいとのことだったので……フォークで切り分けようとしたのですが。ぎゅむっと、しっかり詰まっている感覚に力強さを感じました。このようなお菓子……はじめてですな。

 しかし、切り分けられないわけではありません。ひとかけら分にすると、あんこの中に白いモチがきちんと入っていました。口に入れれば、先程も味見したなめらかな舌触りのあんこだけでなく、噛みごたえのしっかりしたほんのり甘いモチの味わい。

 二つが合わさることで、どちらの味わいが調和していることがわかりました。モチはそこまで甘くないのに、あんこの甘さを絶妙に受け止めているのです。


「いかがでしょう?」


 奥様は変わらずに、ニコニコしていらっしゃるので私らの表情で気持ちはお分かりでしょうが。聞かれたからには、答えないといけません。


「初めての味に、食感ですが……とても美味しゅうございます」

「ふふ。最初は驚きますもんね。もち米ライシの粒を残すのも美味しいですが、こういうのも美味しいですから」


 さあ、どうぞと他の使用人らにも告げられ……皆は私らの真似をして口に入れましたが、一様に『美味しい』とわかる表情になりました。

 この食べ物は不思議ですが、東方大陸では普通なのか気になりましたが……今は味わうことに集中しましょう。

 使用人と主人が席を共にする食卓など……他ではそうそうにありませんからね。奥様がご出産されるまでは、まだまだ時間がありますので楽しみましょう。

 ただ、庭師の若手がモチで喉に詰めそうだったので……やはり、モチと言うのは美味しいだけでなく危険な食べ物だとよく理解出来ました。

 勢いでは食べていけないのですな!
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