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番外編

第63話『出来立てホットケーキ』①

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 焼き菓子なのはわかるけれども、今まで嗅いだことのない……でも、とても良い香り。つい、鼻をひくひくさせてしまいそうになったが、奥様の目の前なのでそれははしたないことだ。

 奥様が手招きされたので、そちらに行くと……フライパンの中身は、丸くて大きい茶色の何かだった。


「奥様? こちらは?」

「ホットケーキというお菓子です」

「……ホット、ケーキ?」

「焼き立てが美味しいケーキなんですよ」


 はじめて聞く名前だが、出来立てが美味しいケーキがあるだなんて知らなかった。ケーキといえば、私のお母さんでも生地を焼いて冷ましてからクリームを塗ったりするのに。奥様が料理長と作られていたのには、クリームも何もない……ただの焼いただけの生地。

 だけど、近くに行ったことで、より一層甘くていい匂いが強くなっているのだ。


「これが……おやつですか?」

「ええ。でしたら、エミリさんには冷蔵庫からジャムを全部と……倉庫から、蜂蜜を取ってきてもらえますか?」

「わかりました」


 パンを食べるような組み合わせだけれど、あったかいケーキに合うのなら……挑戦してみたい。気をつけながら、奥様が手作りされたらしいジャムの瓶などを運び……そちらを人数分の小さなポットに入れて食堂に持っていく。

 大きな食堂だが、ここは今まで……奥様と旦那様だけで過ごされていたと思うと、少し。


(少し……寂しいわ)


 まだ、奥様は身籠られたばかりで、お子様方はいらっしゃらない。旦那様は近衛騎士団の副隊長だけれど、貴族の次男坊なので爵位は騎士側のものしかないと聞いていたが。

 日のほとんどを、奥様はおひとりで切り盛りされていたのだ。そのお寂しさを、今日から私達が少しでもお役に立てれば良いのだけれど。

 私は意気込み、テーブルクロスを整えてから……あとから来たメイドの一人と手分けしてジャムや食器などを並べていった。


「よし、これでいいわね」

「私、他の皆さんを呼んできます」


 残りのセッティングを先輩のメイドにお願いし、私は他の箇所で頑張っている使用人らに声掛けをするのに出て行った。厨房の前を通るとさらに甘くて良い匂いがするけど……我慢だ我慢。美味しいおやつが食べられるのだから!


「お? おやつ?」

「まあ、奥様が?」

「それは絶対美味しそうだな」


 伝達していくたびに、皆さんはびっくりされたけれど……笑顔になっていくのがほとんど。やはり、ワルシュ様のご養女と言うこともあって、奥様のお菓子が気になるのだろうなあ。

 全員に伝え終わってから、また厨房に少し駆け足で戻っていくと……ちょうど、別のメイドの先輩や執事バトラーがホットケーキのお皿を運んでいたわ。


(……焼いて、重ねただけ? けど、甘い匂いがすごい!)


 先輩達に任せるだけでなく、早くお手伝いしなきゃと。転けないように足を遅くしてから、匂いがむせかえるくらいすごい厨房の中へと入っていった。
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