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番外編

第56話『カリッとホクホク、山芋フライドポテト』②

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 油鍋も俺がコンロに設置し、火の通りがよくなるまでしばし待つのだが。イツキは切った山芋を見て、『うふふ』と笑い出した。


「山芋には、もっといろんな調理方法があるんですよ」

「……どのような?」


 イツキがこのように笑顔になるのであれば、きっとその調理法での山芋は美味いに違いない。俺はすぐに聞き返していた。すると、イツキはさらに少女のように微笑みを浮かべた。


「すりおろすとねばねばするんですが。その状態を活かして、味付けしたのをリーゾと食べるのが多いですね。年末に召し上がっていただいたお蕎麦にも合いますよ」

「……想像しにくいな」


 やはり、異世界の調理法は素晴らしいが独特だ。しかしながら、イツキがこれまで振る舞ってくれた料理はどれもが美味い。美味すぎると言っていいくらい、まずいものと出会ったことがないのだ。であれば、その食べ方も一度は食べてみたくなってくる。


「またの機会にしましょう。そろそろ、油も温まってきましたね」


 先代料理長の道具だったと言う、『サイバシ』と言う棒を使い、ゆっくりひとつずつ俺が切った山芋を油の中に沈めていく。すると、じゃがいもでもあったように、芋のまわりが軽くはぜていくのだった。


「……これで火が通るのか」


 イツキと出会わなければ、料理など野営で簡単な魚や肉の塩焼き程度しか……近衞騎士であれど、俺のような者は知らなかった。もともと貴族だったから、作ると言う発想がなかったのだ。あの晩、イツキと出会わなければ……今はなかった。心を通わせ、結婚することも。


「食材によりますが、火を扱うよりも熱が早く通るんですよ。じゃがいもよりも早いですね」

「……味付けは塩だけか?」

「はい。岩塩の方が合うかと」

「持ってこよう」


 少しでも手伝えることがあれば、俺はイツキのために動く。もう少しで、このように二人だけで過ごす時間も終わるからな? 今のうちに堪能しておきたい。

 芋が揚げ終わったところで、俺も岩塩の壺を見つけて戻ってきたが、仕上がりは美しい薄茶色の表面に仕上がっていた。


「これに塩を振って」


 適度に振ったピンクの塩が黒っぽくなるのは、何度見ても不思議だが……実に美味そうだった。楊枝でイツキはひとつ刺すと……結婚してからお決まりになってきた、試食としての『あーん』をしてくれたのだ。


「いただこう……」


 せっかくの申し出を断る理由がない。だが、出来立てなので、軽く息を吹きかけてからかじった。口に入った時の、岩塩という複雑な塩味もだが……芋のほくほく感がじゃがいもとまるで違った! ねっとりしているようで違うような、だがさっぱりもしている不思議な味わい! これは……美味い!!


「どうでしょう?」


 俺の反応は顔を見てわかっているだろうが、言葉で聞きたいのかイツキはわざわざ聞いてきた。


「……美味い。芋は芋なんだが、さっぱりしているし塩味とよく合う!」

「皮付きですと栄養価が高いのですし、香ばしくなるのでおすすめなんですよ」

「……なるほど」


 皮付きにも意味があるのか。単純に調理を省くだけではないとは……今度は自分で楊枝に刺したのを食べたが、たしかに香ばしくてあまり気にならない。


「ポテトチップスみたいなのには、切るのが難しいのでこれくらいがいいんですよね」


 イツキも笑顔になって頬張っていく。その愛らしさに、つい俺も彼女へ食べさせてやりたくなり……楊枝に刺して『あーん』をしてやった。彼女は少し目を丸くしたが、すぐに微笑みを浮かべ……口に入れたものを飲み込んでから、小さく口を開けてくれたのだった。
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