王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ

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番外編

第3話 近衞騎士内で

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「ほーん? ゲイリッシュ先輩と、暗部ん子がねぇ?」

「良いことではないですか」


 翌日。

 隊長らにも知らせた方が良いと思い、執務がひと段落したあたりで二人に伝えたのだ。

 反応はそれぞれだが、二人とも反対する様子はない。


「俺とイツキは、女性の方をメインに服を贈る予定です」

「そっちなん?」

「彼女は、前はイツキの護衛だったからな?」

「……イツキはんのこと、どこまで知っとるん?」

「聞いてはいないが、おそらく黙認しててくれてるだろう」


 そうでなければ、こちらに質問攻めが来るはずだが……一度もなかったからな? もしくは、ワルシュ殿あたりが口止めしてくれているかもしれん。


「しかしながら、喜ばしいことです。僕らにも必要なことがあれば遠慮なく言ってください」

「せやなあ?」

「ありがとうございます」


 とは言え、贈るもののリストはだいたい決まった。

 エマへ手配する段取りも。

 イツキは身重なのであまり遠出が出来ぬから……エマには屋敷に来てもらう予定も組んだ。

 だが、二人の申し出はとてもありがたい。


「兄上~!」


 そうして執務が終わり、訓練所に行こうとしたところで声を掛けられた。俺をそのように呼ぶのは、城内だとただ一人。

 最近、近衞騎士の試験に無事合格出来た我が妹のアイシスだ。細身ゆえに、訓練用の制服がよく似合う。女性らしい体型はしっかりしているが……イツキを見慣れているせいか、胸が乏しく見えてしまう。標準よりは上だとはわかっているが、アイシスは成人してもまだ子どもだ。

 これから成長していくだろう。


「アイシス。城内では『副隊長』だろう?」

「失礼! おひとりだったもので」

「……まあ、いいが。訓練は終わったのか?」

「はい! ミュラー先輩にも厳しくご指導いただきました!」


 少し位が上がった、騎士のミュラー。

 アレルギーなどの件で、顔立ちが落ち着いてきたが背丈や体格も最近かなり成長してきて。

 数少ない女性騎士やメイドらにも人気があるが、部下にも慕われているらしい。アイシスもそのひとりだ。


「そうか。もっと厳しく指導してもらえ」

「兄上はダメですか?」

「……屋敷じゃないんだから、俺とやると周りが困るだろう?」

「そうでしょうか?」


 ミュラーは多少加減はしているだろうが。

 俺は兄だから、アイシスへの手加減はほんの少しだ。実は男顔負けの体力保持者に、周りの新人騎士らが引くのは避けたい。

 こいつの貰い手が、ただでさえ少ないのに減る一方だ。兄として、一応そこは心配したい。


「……とりあえず、今日は終わりか?」

「はい! 最近友達になった女性とこの後食堂に行きます!」

「……友達?」

「暗部との合同訓練で、意気投合したんです!」

「……まさか」

「? 兄上、もしやスイード殿とお知り合いですか?」

「……ああ」


 世間は狭い……とイツキが前に教えてくれた言葉の意味がよくわかった。
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