上 下
404 / 782
国王のまかない⑧

第4話『暮れの再び年越し蕎麦』②

しおりを挟む
 ずずっと……音を立ててしまったが。

 パスタとは違う……不思議な感覚だった。

 パスタよりは柔らかいが、少し噛みごたえのある『オソバ』は……独特の風味があったが、スープの味と相まって『美味』と感じ取れた。

 オソバをすすったことで、スープの味がさらに引き立つと言うべきか。

 スープは……いつも口にしている、ポタージュやコンソメのものとはまったく違う。

 一見すると……黒い、コーヒーよりいささか薄いが、その中に沈んでいるオソバはグレーの色合いの上、黒い粒々としたものが入っている。

 だが、それが。

 娘が、とても美味そうに口にしていた為、親である俺も……少し抵抗はあったが口に出来た。ひと口食べるごとに、食べ方はともかく……やはり、イツキの手がけた料理は素晴らしいとわかり……ついつい、側仕えの者らがいる前なのに、がっつく勢いで食べてしまった!!


「……美味い」


 俺が……器の半分を食べ終えたくらいで、ようやく勢いを止めることが出来た。


「ええ、陛下。食べ方にも驚きましたが……とても美味しゅうございますわ」

「お父様、お母様! こっちもすっごく美味しいわ!!」


 リュシアはオソバを堪能したのか、『カキアゲ』と言う揚げ物も……実に美味そうに口にしていた。

 リュシアの顔半分くらいあるそれは……中も火が通っているのか、見るからにサクサクしている。


(……おお)


 そちらはナイフとフォークで切り分けられたが……サク、サクッとした感触が食器越しに伝わってきた。イツキが厨房に加わったことで、素揚げ以外の揚げ物もだいぶ馴染み深くなってきたが……これは、初めて……いや、違うな?


(……ネルが一度言っていたな?)


 城下町で、イツキのレシピが多数広まり……その中に、不思議な揚げ物もあったと。であれば、これもそのひとつか?

 イツキの頭の中には……どれだけ、レシピが多く存在しているのだろう。

 東方大陸はそれだけ、食の進化が著しくなっているのか?

 ともかく、これも食べてみようと……イツキが言っていたように、添えてある岩塩を軽くつけて口に運んだ。


「まあ!?」


 先に食べていたヘルミーナが声を上げるのも、無理はない。

 俺もサクサクと音を立てながら……口に入れた『カキアゲ』は。

 今までの揚げ物とは、また違った味と食感の驚き……声が出なかったほどだ。


(……肉はない。野菜か? なのに、全然物足りなさを感じない!?)


 噛んでいくごとに……細く切った野菜の甘みを十分に感じる。わかったのは、にんじんと玉ねぎだが……一番細い、香りが強いものは何かわからない。だが、独特の清涼感もあり、ちっとも嫌だとは思わない!!

 たしかに、これにあのスープで味付けしても美味いだろう。

 しかし、これは塩が一番かもしれん。

 スープをひと口飲んで、交互に繰り返すことでその味わいもわかったが……俺は、塩の方が好みだった。


「「「はぁ~~……」」」


 ほぼ全員同時に食べ終えたが。

 誰もが、器一杯と揚げ物ひとつで……十分に満足出来たのだった。


「今日も美味かったぞ。イツキ」

「恐縮です」


 俺が労いの言葉をかけても、イツキは柔らかく微笑んで最敬礼をするだけ。

 もっと自信を持ってもいいだろうに……特に偉ぶろうとしない姿勢は、俺もだが王族一同気に入っていた。

 だからこそ、イツキに何かしてやりたいと思ってしまう。

 新年を迎え、リュシアが学園に行くまでには……彼女とアーネストの邸を建設出来れば、とは思った。

 食後の休みを終えたら、すぐにハクト親方を執務室に呼ぼうと決め……親方に告げると、自分も建設に加わると言い出して、それには苦笑いが止まらなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

異世界で農業をやろうとしたら雪山に放り出されました。

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたサラリーマンが異世界でスローライフ。 女神からアイテム貰って意気揚々と行った先はまさかの雪山でした。 ※当分主人公以外人は出てきません。3か月は確実に出てきません。 修行パートや縛りゲーが好きな方向けです。湿度や温度管理、土のphや連作、肥料までは加味しません。 雪山設定なので害虫も病気もありません。遺伝子組み換えなんかも出てきません。完璧にご都合主義です。魔法チート有りで本格的な農業ではありません。 更新も不定期になります。 ※小説家になろうと同じ内容を公開してます。 週末にまとめて更新致します。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。