上 下
402 / 782
国王のまかない⑧

第2話 ふたりへの褒美

しおりを挟む
 内密に事を進めていくのも悪くはないが……自分達の住む場所を勝手に決められるのは、たとえ国王の俺の意見でもよくないだろう。

 とりあえず、アーネストとイツキを執務室に呼ぶことにした。

 ふたりは、部屋に入ってくると最敬礼をすぐにしてくれた。


「……ふたりを呼んだのは、ひとつ提案があるのだ」

「提案?」

「ですか?」

「……お前達は、婚約しているだろう?」

「「は……はい」」


 二十を過ぎている年齢であるのに、初々しいと言うべきか。陰であるレイドの部下からの報告によると、少し前の休暇の時に……ようやっと一線を越えたそうだが。

 それを聞くのは野暮なので、俺はひとつ咳払いした。


「いずれは婚姻を迎え、住む場所を変わるだろう? であれば、俺が公爵家から近い領土を与えようと考えている。そこに……邸も建てるつもりだ」

「へ、陛下? そのような褒賞を何故」

「いただき過ぎですよ」


 アーネストは少し慌てて、イツキはいつも通りに冷静に受け答えをしている。これも、まあいつの通りだ。


「与え過ぎではないぞ? 我が国の恩人とその伴侶となる者への褒美だ。これでも俺は随分抑えたものだが」

「けど、お屋敷だなんて……」

「ワルシュから聞いているぞ? アーネストと結婚してもしばらくは厨房に詰めることは。なら、アーネストの実家とは別の住む場所があれば気兼ねなく城に来れないか?」

「……そうかもしれませんが」


 仕事のことを言えば、やはりイツキも渋々頷くように様子になった。

 アーネストとのこともだが、イツキ自身は厨房で働くことをとても誇りに思っているようだからな?


「結婚を急ぐとは言わん。だが、邸の建設は春くらいに間に合うように進めていく。出来上がったら、お試しで住むのもいい。そこは自由にしてくれ」

「「有り難く、頂戴致します」」


 ひとまず、邸の件はこれで納得してもらえたが。

 イツキから、少し特殊な昼ご飯をと……王族の食堂に持ってきてくれることになった。


「イツキ! 今日のご飯は何かしら?」


 リュシアーノが席につきながら、ウキウキとしていた。あと数ヶ月でこの城から学園に寄宿生となるので、友人が手がけた料理を食べれるのが嬉しいのだろう。


「はい。以前、リュシアーノ様にも召し上がっていただいたお蕎麦です」

「! 美味しかったわ!!」

「はい。今回は陛下方にもと」

「オソバ?」

「とは、なんだ??」


 また、東方大陸から取り寄せた食材を使ったものだろうか??


「あーう、あう! い、い!」


 ヘルミーナの横に置いた、赤児用の簡易ベッドの中にジェラルドがいるのだが。

 イツキが近くに来ると、抱き上げて欲しいとばかりに体を乗り出そうとしていた。赤児の世話が得意でいるらしいイツキには……下手をすると俺達以上に懐いているからな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。