王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

忍者のまかない

第4話 元英雄の過去

　何故？

　何故……何故！？

　スイード……は、動揺を……隠せなかった。

　武器を構えようにも、肩に大きな腕を回されているのと利き腕を掴まれて……動けない。

　スイード……が、焦っていると、ゲイリッシュ様が……突然笑い出した。


「だっはっはっは！？　青いが腕は悪くはねぇな？」


　と言って……スイード、を離すと……見上げた時に目に入った表情…………何故か、とても笑顔でいた。


「……す……わ、たし……を知って？」


　普段は使わない……任務の時にしか使わない、『私』で返事をすると、ゲイリッシュ様はニヤッと口端を緩めた。


「レイドは元気か？」

「お……かしらを？」


　気軽に、頭をそのように呼べる……ということは、知己と言うことか。


「ああ。あいつがひよっこの頃から知ってる。俺も一時期……お前さんらと同じ事をしていた」

「……え？」


　そんな事実……頭から、聞いたことが、ない。

　しかし……ゲイリッシュ様……目は、偽りの光を見せていなかった。


「んまあ、だいぶ昔だしなあ？　足洗ったのも、あいつが次期頭候補に上がる随分前だ。俺は性に合わなかったんだ……己を偽り、かつ命を尊びもしない生き方がな？」

「…………」


　たしかに、今の……ゲイリッシュ様は……生き生きとしている、言葉が似合う。

　ここにいる男らとも、信頼……している関係を築けて、いるようだ。スイード……にも、なんとなくわかる。


「お前さんを見破れたのは、あれだ。足音消し過ぎだ。あと、腕っ節が細い割に良すぎる。レイドの野郎、女なのに容赦なく鍛えすぎだな？」

「……いい、んです」


　頭が、スイード……を拾ってくださらなきゃ、スイードは……きっと、もっと酷い生活をしていた。盗みを行い、人を殺めていたかもしれない。幸い……どちらも、犯す手前ではあった。

　ポツポツ、と口に出してしまうと……ゲイリッシュ様は、スイードの頭を優しく撫でてくださった。


「ま。お前さんが納得しているんならいい。んで、ここにはイツキの嬢ちゃんの護衛か？」

「……はい」

「の割に、陰らしくない行動してるが？」

「……その」


　正直に理由を告げようとした途端。

　間の悪い……ことに、また、スイード……のお腹が大きく音を上げた。

　これで理由がわかったのか……ゲイリッシュ様は、また大声で笑い出した。


「だっはっは！？　そりゃ仕方ねぇか？　んじゃ、姿はそのままにしとけ？　遠慮なく食え食え。ちゃーんと働いてくれたしな？」

「……お、咎めは」

「ないない。珍しいなと思って引き留めただけだ。レイドの野郎には秘密にしといてやる。今日だけは……俺の部下として、嬢ちゃんの料理食ってけ」

「！？」


　ゲイリッシュ様……から、許可がいただけた。

　とても……嬉しい、と思って……しまった。あの料理が食べられると思うと。

　それから……きちんと仕事を男らと終えたあと。

　イツキ様と、ワルシュ様が……手がけた『カキフライ』と……言う料理をいただくことが出来た。

　とても……熱くて、けど中は焼いたカキと同じように……滑らかで舌触り、がいい。そこに揚げたパンコのサクサクしたのに……タルタルソースをたっぷりつけると……美味しくて美味しくて！！

　スイード……は、その時は陰だと言うのを忘れて……男らと一緒に大いに食べた。食べ過ぎで、スイード……にはなかったけど、男らにはゲイリッシュ様からのゲンコツが凄かった。