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騎士のまかない㉔

第4話 酔っても愛らしい

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 そして、俺も何とか風呂を済ませたのだが。

 部屋に戻ると、春の暖かな風のようなものが吹いていたのだ。イツキが窓でも開けたのかと思ったが、違った。

 彼女が、ドレッサーの前で……生活魔法を使っているのか、髪が浮いてなびいていた。少し近づくにつれて、イツキからその暖かな風を起こしているのがわかると……おそらく、調理にも使う彼女独自の生活魔法だなと実感出来た。髪を乾かしているのだろう。

 そして、俺がゆっくり近づくと鏡に写ったのか……イツキが『ビクッ』と音が聞こえそうなくらい体を揺らした。


「ア、アーネスト、さん。早い……ですね?」

「イツキよりは、髪が短いからな?」

「……こちらに来て、そこそこ伸びました」


 たしかに、いつもゆるくゆわえている程度だったが……ハロウィンの時の衣装を思い出すと、だいぶ伸びていた気がする。

 その髪に触れられるのが……髪以外にも、肌などに触れられるのが俺だけだと思うと。なんとも言えない幸福感が込み上がってきて、俺は一気に距離を縮めて後ろからイツキを抱き込んだ。

 いきなりのことで、イツキは可愛らしい声を上げたが。


「……触れられるのは、俺だけだ」

「…………アーネストさん」

「今日……ここに連れて来た意味。さすがに君でもわかっているだろう?」

「…………鈍い鈍い、って言われても……さすがに」

「はは。ここで拒否されると、いくら俺でも堪える」

「ふふ」


 柔らかい。

 花風呂の効果もあるせいか、髪や肌から少し甘い香りがする。

 イツキは職業柄、香水などはつけれないと言っているから……少し新鮮だった。

 今夜、そんな彼女を自分だけのものに出来る。

 そう思うと……気持ちもだが、体も昂りを感じてしまう。


「イツキ。軽く酒でも飲まないか?」

「お酒……ですか?」

「風呂上がりに、いきなりでは……な」

「う」


 それともうひとつ。

 前々から考えていたのだが、イツキの酒を飲んだ時の表情を見てみたい。もう時期、お互いの生誕日であるが……今日一線を越える記念として、先に彼女の新たな一面を見てみたい。

 そう思ったのだが。

 軽めの甘いワインを……ほんのひと口程度飲ませただけなのに。


「イ、イツキ??」

「ンフフ~~、アーネストさぁん!」


 まるで猫のように、イツキが俺に抱きついて全力で甘えてきた。

 どうやら、酒精の耐性がないのか少しの酒で酔っ払ってしまったようだ。

 もしかして、料理長はこれを知って、パーティーなどや宴会でイツキに酒を飲ませないようにしていたのか?


(だが……しかし!)


 可愛い。

 とても、愛らしいのだ!

 俺と言う存在の前だから……彼女も酔って、箍が外れたとは言え……ここまで積極的なイツキは今まで見たことがない。

 もっと、紳士的に対応したかったが……このように可愛らしい婚約者を見ると、俺も我慢が出来ず。

 俺は、イツキを落とさないように抱き上げてからベッドに向かった。


「アーネストさぁん?」

「イツキ。君が酔っただけではない。俺は……君を全部俺のものにしたい」


 俺がキスの前に、建前のような言葉を紡げば……イツキはふにゃんと音がしそうなくらい、幸せな笑顔になった。


「はぁい。全部……アーネストさんのです」

「…………ああ」


 その言葉を聞くと、計画していた順序などがガラガラと崩れていき。俺は貪るように、まずはキスでイツキに愛を伝えた。
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