王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

まかない婦のまかない⑨

第3話 厄介でも必要な

　生産ギルド、エマさんのお店にも行った。

　しかし……夜までまだまだ長い。

　時間潰しも兼ねた、演劇については演目がよろしくない内容なのでパス。

　去年、街中で出来たスケートリンクはまだ時期じゃないので常設されていないので……同じく。

　しかし、まだまだ公園でゆっくりしようと……ベンチのひとつに座ることになった。


「…………冷え込みますね？」


　こちらの世界……シブーストと言う世界では、四季はあっても湿度は低い。

　夏に熱中症になりかけた人達は多かったけれど……その湿度が低いお陰で重症者はお城の中でも、街でも出なかったそうだ。

　さておき、冬場でも湿度がないけれど……風は冷たくて、芯から冷え込んでしまいそうだ。一応……去年ハインツベルト家の皆さんからいただいた、モコモコの服で着込んでいる部分は冷えないが。


「……そうだな。辛いか？」

「いえ。大丈夫です。雪があまり降らないのは助かります」

「……イツキがいたところだと、どうだったんだ？」

「話してませんでしたっけ？」

「ああ。詳しくは」


　公園に来ている人達とは距離があるから、少しくらい日本について話していても問題ないかも。とは言っても、料理じゃない話題を話すのは少し久しぶりだ。

　リュシアーノ様とはしょっちゅうだけど、アーネストさんとは久しぶりだから。


「まず、湿気と言うのが多い国でした」

「湿気？　湿った感じなのか？？」

「地域によっては、それが好都合だったりしますが……普通は嫌がるのが大半でしたね」

「……雨でじめっとするのも十分嫌だが」

「ところが、食材を育てたり加工するのには最適ですね。特にパンとか」

「パン？」


　こちらの世界では、パンの製造についてはあんまり見ていないが。(と言うか、いつのまにかすぐ出来ている)

　家電や業務機のメーカーを取り扱っていた、営業だった私には多少知識がある。パンの一次発酵や二次発酵には湿度が関係してくることを。それを設定すれば自動で湿度を作り出すことの出来る機械は……魔導具を含めて、こちらの世界ではない。

　けど、食パンもだが……普通のロールパンとかも美味しいのだ。お米を中心に扱うのが私の管轄だったので、そろそろ料理長には聞いてみようと思う。

　その疑問などをアーネストさんに説明しても、アーネストは管轄外なので、さっぱりだと首をひねってしまった。


「ふふ。難しかったですか？」

「……ああ。よく、わからない」

「小麦にもアレルギーがあるんですが、疾患者が少なくてよかったです」


　パンは代表的な食べ物のひとつだが、この世界ではアレルギーの疾患者は少ないそうだ。たまに診察を受ける時に、バクス先生が教えてくれたのだ。


「……イツキのお陰で、俺達は救われた。俺にはそれ以上だが」


　と、肩に腕を回されて……少し引き寄せられた。

　まさか、と思っているうちに、顎をすくい上げられて……軽くキスされてしまった！？


(ここ、屋外！？)


　離れた時に、目だけでキョロキョロと周囲を見たが……あちこちのベンチで、カップルがいちゃついていたので……アーネストさんも雰囲気ついでに参加したんだなと思った。

　だからって、私は大胆には出来ない！？　と、『もうもう！』と言いながら彼の胸板に軽く拳を叩きつけた。

　アーネストさんには、その意味がわかったのか嬉しそうに笑うだけだったけど。