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騎士のまかない㉒
第3話 新しい職員②
しおりを挟む「……報酬、いらない?」
ギルマス達があんぐりと口を開けている間、スイードがイツキの隣に来て、軽く袖を引っ張った。気配断ちに近い……身のこなしは、まさか暗部の人間かとも思いかけた。しかし、無表情から感じ取れるものは敵意を向けるようには見えず、純粋な『感想』に思えた。
「はい。私は特に必要ないので」
イツキも驚いていたが、スイードの質問に答えるべくきちんと応対した。さすがは、我が婚約者!! 物怖じない態度に、益々惚れ直してしまいそうだ。
イツキの対応を聞いたスイードは、改めて聞く彼女の答えにまた首を傾げたが。
「? お金……必要。買い物、とか」
「お買い物は滅多にしませんね? 今はお城の厨房で仕事をしていますから、食材の調達には困りません」
「……服、アクセサリー」
「えっと……アーネストさんが買ってくださることが多くて。けど、そうですね。自分でも」
「いや!? そこは俺を頼ってくれ!!?」
俺とて、使わないでいた金など腐るほどあるのだから!?
「……好きな、もの。ない?」
「「好きなもの??」」
「スイードちゃん、もうちょっと詳しく言わなくては。報酬金の使い道に、個人としての……と言いたいのでしょう?」
「……諾」
「……ちゃん?」
「あれ? アーネストさん、スイードさんが男の子と思ってました?」
「……ああ」
どうやら、この職員は女性だったらしい。胸元をよく見れば、たしかにイツキには劣るが膨らんではいた。謝罪をすぐすると、彼女は首を左右に振る。
「よくある。気にしない」
「いけませんよ。女の子は女の子なんですから」
「身だしなみについては、特に言及したことがありませんのでこの通りです。さて、とりあえず報酬金なのですが。スイードちゃん、せっかくだから持ってきて」
「承諾」
と言って、スイードがこれまた素早く奥に行って……少しして戻ってくると、男顔負けの怪力で報酬らしい金の入った袋を何個も担いできた!?
小柄な女性だというのに、筋肉がかなりないと持てない量だぞ!!?
(しかし……これでも、おそらく一部のはず)
それらを、また驚いているイツキの前にドサっと置いた。
「……これ、あと三回分はある」
「「さ、三回分!!?」」
「本当ならもっとお渡ししたいのですが……これでも、必要最低限にしました」
これは……たしかに受け取らないわけにはいかない。
金もだが、イツキのお陰で助かったのは国内外にも多く広まっている。俺の婚約者、殿下や隊長らの友人と言うことで、誘拐などはギリギリ避けられてはいても。
異世界からの渡航者と言う事実を知られたら……ただの有名人だけで済まないだろう。であるからこそ、収入を得られる場所があるのなら受け取らなくては。
「なら、また俺の亜空間収納に入れておこう。使用目的が出来れば、いつでも俺が取り出す」
「……お世話かけます」
「そんなことはない」
イツキも報酬について理解してくれたのか、素直に受け取ることに。スイードが残りの金の袋を持ってきてから、俺は彼女の手伝いも借りて亜空間収納に入れていく。近衛騎士に勧誘したいくらいの腕っ節だが、ギルドとしても手放したくないだろう。
と思ったら、ギルドを出ても着いてきて。
「……陛下より、勅命を賜った者」
と言って、隠密部隊特有の黒い装束に早着替えして、一礼してから俺達の前より姿を消した。……ではなく、持ち場に戻ったのだろう。
イツキに振り返ると、目を輝かせていた。
「……忍者ですね!」
「……ニンジャ、とは?」
「隠密……と言うんでしょうか? レクサスさんのように身のこなしが凄い人達とか」
「なるほど」
しかし……陛下から隠密の直属は配置されているとなると。
今晩……イツキと宿に泊まる様子は見られない……はず、と心配になってきた。
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