王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

騎士のまかない㉑

第4話『目で楽しむ華茶』②

「お待たせ致しました。華茶はなちゃを先にお持ちしました」


　華茶と言っても、最初に花を浮かべたものではない。

　乾燥させた、宝玉オーブくらいの大きさの茶色い玉をガラスのポットの中に入れてあり。その中へ、店員が湯を注いで……少し経つと、花が開いていく仕組みだ。

　実際、イツキの目の前でそれが実演されると……イツキはまるで子供のように瞳を輝かせた。

　だんだんと、ほころんで咲き出す花の様子に……湯の色もほんのりピンクになるせいか、イツキの感性にさらに響いたのか。『ほう』と感心したような息をこぼしたのだ。その表情だけでも、俺はますます惚れ直してしまう。


「お湯がもう少し、ピンク色になれば飲み頃です。デザートをお持ちしますので、もう少しお待ちください」

「ありがとうございます」


　イツキは物凄くうきうきしていて、いつ飲めるか楽しそうだった。


「……イツキのいたところでは、このような細工物の茶はなかったか？」

「一応、ありましたが。もっと小さいですね？　こんなにも立派な工芸茶はなかったです」

「工芸茶と言うのか？」


　たしかに、魔法などで加工するからその名称もあながち間違ってはいない。

　だんだんと開いていく華茶は……黄色い水蓮の花と紅い玉花が浮かび上がり、イツキの顔がさらに輝いていく。

　開き切ったくらいに、先ほどの店員がデザートと俺のコーヒーを持って来てくれて、それぞれの前に置いてくれた。


「カップに注ぎますね？」


　ゆっくりと、浮かんでいる花らを潰さないようにガラスのカップに茶を注いでいくのはさすがと言うべきか。

　そのカップをイツキの前に置いてから、店員は軽く会釈をして帰っていく。終始笑顔でいたのは、イツキの反応を微笑ましく思ったのかもしれないな？


「……いただきます」


　カップの茶は、ガラス越しでもよく見えるが……殿下の瞳より少し薄いくらいのピンク色だった。

　両手でイツキはカップを持ち上げ、ゆっくりと飲んでいく。

　その唇に触れたいとも思ってしまったが……また、イツキの恍惚の表情を見て、心の臓が痛いほど高鳴る。

　きっと、甘くて飲みやすいと思っただろうが……ここまで、女の表情を表に出すイツキは珍しい。

　だから、周囲がこそこそと『美しい』と賞賛しているのに、早くここを出たいと思ってしまったくらいに。

　しかし、イツキはまだまだゆっくりと華茶やデザートのケーキを楽しんでいた。そんな婚約者の楽しみを奪うほど、俺はダメな男になりたくなかったのだ。


「うーん……ケーキは抹茶の方が合いそう……。渋めの紅茶の葉でも」


　それに、料理人としての考察も邪魔をしたくはなかった。