349 / 784
王妃のまかない⑨
第1話 先輩からの助言
しおりを挟む ジェラルドがお昼寝している時にだったが。
娘だけでなく、私の友人でもあるイツキから……珍しく、休暇の願いを伝えられたのだ。
それも、『泊まり』で。
「アーネストと?」
「は、はい。……ジェイシリア、にですが」
口調と態度。
これについては、いつも堂々としていて丁寧な口調を崩さないイツキにしては……珍しいことだったわ。
「…………もしかして、だけど」
「は、はい」
「……イツキ。あなた、アーネストと……まだ、なの?」
「……………………はい」
野暮なことではあったのだが。
イツキとアーネストが婚約をして丸一年近く経つと言うのに……未だに、清い身であるのには驚きを隠せなかった。とうの昔にてっきり……とも思ったが、それにしては身籠る話題などが出て来ないでいたわ。
だとしたら……アーネストは相当な奥手。もしくは、イツキを気遣ってか。
どちらにしても……これは由々しき事態。
「そう。……なら、もしそう言う事態になったとしたら…………殿方にお任せするのよ?」
「ふぇ!?」
「イツキを見る限り……初めてのようだから、私から言えるのはそれくらいだわ」
私とて、陛下が最初で最後の方であるから……経験が他にあるわけではないけれど、基本的な知識は身につけているつもり。イツキは、知識はあれど……経験は皆無のようだから、出来るだけ落ち着かせなくては。
「………………た、たしかに。そう言うのははじめて……ですが」
羞恥心は大層あれど、嫌がっている様子ではない。
それほど、イツキは彼女なりにアーネストを愛していると言うこと。いつもの堂々としていて、丁寧な物腰を崩さないイツキをここまでさせるのだもの。アーネスト……さっさと、イツキを身籠らせなさいと思ったわ。
「大丈夫。アーネストのそう言う事情は、私も知らないけれど……貴族だから、基礎の知識は身につけさせられているはずだもの。きっと、大丈夫よ?」
アーネストのことだから、高級娼館に行く度胸だなんてないとは思うけれど。行っていたとしたら、それはそれでどうかしら?
社交の場でも、浮名がないことで有名ではあったけれど……イツキのためとは言え、そのようなことはないはず。それに、もし致す場と雰囲気になれば……彼とて我慢が出来ないはずだわ。私も陛下とのことで学んだだけでしか知らないが。
「は……はい。その時は……お任せします」
イツキの緊張感は見ていて微笑ましい。
私とそう歳が変わらないのに……今まで添う男性がいなかったのも不思議に思えるくらい、恋については可愛らしい。だからこそ、アーネストはこの女性を見初めたのだろう。男と偽っていた時から、好いていたとイツキには聞いたが。
「では。休暇の件は了承したわ。せっかくだから楽しんでいらっしゃい?」
「た……楽し……」
「表向きは休暇でしょう? それと、何かおやつを作ってくれたと言っていたのは?」
「あ、はい」
部屋の端に用意してあった、ひとつの蓋付きワゴン。
そこから……微かだが、良い香りがしていたのだ。
娘だけでなく、私の友人でもあるイツキから……珍しく、休暇の願いを伝えられたのだ。
それも、『泊まり』で。
「アーネストと?」
「は、はい。……ジェイシリア、にですが」
口調と態度。
これについては、いつも堂々としていて丁寧な口調を崩さないイツキにしては……珍しいことだったわ。
「…………もしかして、だけど」
「は、はい」
「……イツキ。あなた、アーネストと……まだ、なの?」
「……………………はい」
野暮なことではあったのだが。
イツキとアーネストが婚約をして丸一年近く経つと言うのに……未だに、清い身であるのには驚きを隠せなかった。とうの昔にてっきり……とも思ったが、それにしては身籠る話題などが出て来ないでいたわ。
だとしたら……アーネストは相当な奥手。もしくは、イツキを気遣ってか。
どちらにしても……これは由々しき事態。
「そう。……なら、もしそう言う事態になったとしたら…………殿方にお任せするのよ?」
「ふぇ!?」
「イツキを見る限り……初めてのようだから、私から言えるのはそれくらいだわ」
私とて、陛下が最初で最後の方であるから……経験が他にあるわけではないけれど、基本的な知識は身につけているつもり。イツキは、知識はあれど……経験は皆無のようだから、出来るだけ落ち着かせなくては。
「………………た、たしかに。そう言うのははじめて……ですが」
羞恥心は大層あれど、嫌がっている様子ではない。
それほど、イツキは彼女なりにアーネストを愛していると言うこと。いつもの堂々としていて、丁寧な物腰を崩さないイツキをここまでさせるのだもの。アーネスト……さっさと、イツキを身籠らせなさいと思ったわ。
「大丈夫。アーネストのそう言う事情は、私も知らないけれど……貴族だから、基礎の知識は身につけさせられているはずだもの。きっと、大丈夫よ?」
アーネストのことだから、高級娼館に行く度胸だなんてないとは思うけれど。行っていたとしたら、それはそれでどうかしら?
社交の場でも、浮名がないことで有名ではあったけれど……イツキのためとは言え、そのようなことはないはず。それに、もし致す場と雰囲気になれば……彼とて我慢が出来ないはずだわ。私も陛下とのことで学んだだけでしか知らないが。
「は……はい。その時は……お任せします」
イツキの緊張感は見ていて微笑ましい。
私とそう歳が変わらないのに……今まで添う男性がいなかったのも不思議に思えるくらい、恋については可愛らしい。だからこそ、アーネストはこの女性を見初めたのだろう。男と偽っていた時から、好いていたとイツキには聞いたが。
「では。休暇の件は了承したわ。せっかくだから楽しんでいらっしゃい?」
「た……楽し……」
「表向きは休暇でしょう? それと、何かおやつを作ってくれたと言っていたのは?」
「あ、はい」
部屋の端に用意してあった、ひとつの蓋付きワゴン。
そこから……微かだが、良い香りがしていたのだ。
25
お気に入りに追加
5,495
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。