王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ

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王妃のまかない⑨

第1話 先輩からの助言

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 ジェラルドがお昼寝している時にだったが。

 娘だけでなく、私の友人でもあるイツキから……珍しく、休暇の願いを伝えられたのだ。

 それも、『泊まり』で。


「アーネストと?」

「は、はい。……ジェイシリア、にですが」


 口調と態度。

 これについては、いつも堂々としていて丁寧な口調を崩さないイツキにしては……珍しいことだったわ。


「…………もしかして、だけど」

「は、はい」

「……イツキ。あなた、アーネストと……まだ、なの?」

「……………………はい」


 野暮なことではあったのだが。

 イツキとアーネストが婚約をして丸一年近く経つと言うのに……未だに、清い身であるのには驚きを隠せなかった。とうの昔にてっきり……とも思ったが、それにしては身籠る話題などが出て来ないでいたわ。

 だとしたら……アーネストは相当な奥手。もしくは、イツキを気遣ってか。

 どちらにしても……これは由々しき事態。


「そう。……なら、もしそう言う事態になったとしたら…………殿方にお任せするのよ?」

「ふぇ!?」

「イツキを見る限り……初めてのようだから、私から言えるのはそれくらいだわ」


 私とて、陛下が最初で最後の方であるから……経験が他にあるわけではないけれど、基本的な知識は身につけているつもり。イツキは、知識はあれど……経験は皆無のようだから、出来るだけ落ち着かせなくては。


「………………た、たしかに。そう言うのははじめて……ですが」


 羞恥心は大層あれど、嫌がっている様子ではない。

 それほど、イツキは彼女なりにアーネストを愛していると言うこと。いつもの堂々としていて、丁寧な物腰を崩さないイツキをここまでさせるのだもの。アーネスト……さっさと、イツキを身籠らせなさいと思ったわ。


「大丈夫。アーネストのそう言う事情は、私も知らないけれど……貴族だから、基礎の知識は身につけさせられているはずだもの。きっと、大丈夫よ?」


 アーネストのことだから、高級娼館に行く度胸だなんてないとは思うけれど。行っていたとしたら、それはそれでどうかしら?

 社交の場でも、浮名がないことで有名ではあったけれど……イツキのためとは言え、そのようなことはないはず。それに、もし致す場と雰囲気になれば……彼とて我慢が出来ないはずだわ。私も陛下とのことで学んだだけでしか知らないが。


「は……はい。その時は……お任せします」


 イツキの緊張感は見ていて微笑ましい。

 私とそう歳が変わらないのに……今まで添う男性がいなかったのも不思議に思えるくらい、恋については可愛らしい。だからこそ、アーネストはこの女性を見初めたのだろう。男と偽っていた時から、好いていたとイツキには聞いたが。


「では。休暇の件は了承したわ。せっかくだから楽しんでいらっしゃい?」

「た……楽し……」

「表向きは休暇でしょう? それと、何かおやつを作ってくれたと言っていたのは?」

「あ、はい」


 部屋の端に用意してあった、ひとつの蓋付きワゴン。

 そこから……微かだが、良い香りがしていたのだ。
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