上 下
347 / 782
王女のまかない⑩

第3話『なめらか小豆アイスクリーム』②

しおりを挟む
 ジェラルドを抱っこするには、この体だと少し大変なので……ゆっくりと抱っこしてあげた。


「お母様を困らせてはダメよ、ジェラルド?」

「あぶ?」


 多分転生者ではないでしょうから、ジェラルドが何を主張したいのかわからない。とりあえず、私が抱っこしてくれてたからか、持ち上げると『きゃっきゃ』とはしゃいでくれたわ。


「ふふ。やんちゃ盛りですからね?」

「うー!」


 イツキがジェラルドの頭を撫でると、彼女にも抱っこしてもらいたいのか……ジェラルドが手を伸ばした。イツキは私とお母様に確認を取ってから、ジェラルドの脇に両手を差し込んだ。

 許可を取らなくてもいいのに、と思うのだが……私も時々忘れがちだが、私やジェラルドは王族だ。ただの一般人ではない。


「はーい。高い高ーい!」

「あぅ! ぶー!!」


 けど、許可を出したらイツキは全力でジェラルドをあやしてくれていた。

 ジェラルドも、イツキがよく遊んでくれるお姉さんと認識しているのか、全力で楽しんでいた。

 それもいいが。


「お母様。イツキとおやつを作ってきたの!」

「あら、嬉しいわ」


 早速お茶会にしようと……メイド達に準備をさせて、ジェラルドも座れるようにセッティングされた。ジェラルドはイツキの横がいいのか、お母様とイツキの間に座ることになった。


「あう?」


 ジェラルドは、私が亜空間収納から取り出した小豆アイスを見て……ちょっと首を傾げていたわ。まあ、この世界にアイスクリーム自体ないもの。


「まあ。これは……アイスクリーム?」

「はい。たまには……と、小豆ロッシを使ってリュシアーノ様とご一緒に仕上げました」

「これが……ロッシ?」

「なめらかな舌触りで美味しいですよ?」

「いただくわ。……ジェラルドには少しばかりいいかしら?」

「はい。チョコレートは使っていませんし、少しなら」


 と言うことで、私がジェラルドに少し食べさせてあげることになったわ。


「はい、ジェラルド? お口を開けて?」

「あー」


 一歳児でもこちらの言っていることを少しずつ理解しているのか……口をゆっくり開けてくれた。そこに、デザートスプーンでほんの少し載せたアイスを入れてあげれば……口に含んだら、むぐむぐと口を動かした。


「どう?」

「あー!」


 よっぽど美味しかったのか、また『きゃっきゃ』と両手と両足をバタつかせたのだった。


「あら、気に入ったようね?」


 と言って、お母様もひと口食べると……ほんわかと柔らかな笑顔を浮かべてくださったわ。


「いかがでしょう? ヘルミーナ様」

「とっても美味しいわ。オモチでもだけど……このように冷たいものにまで、ロッシ……アンコだったかしら? 豆が合うだなんて思わなかったわ。甘い豆というのは、イツキが以前いたところだと普通なの?」

「……そうですね。餡子の甘味の加減は、私好みにさせていただいていますが」


 少し言葉を濁すのも無理はない。

 私は転生者だけど……イツキは転移者。約二年前に、この世界にトリップさせられた。その秘密を知る人間は……ごく限られている。お父様の鑑定スキルでも、そこは閲覧出来ないようになっているのは……神とかの気まぐれかもしれないわ。


(そう言えば……イツキにも鑑定スキルが身についたって言ってたけど)


 レアスキルなのに、今の仕事関連しか使わないらしいのよね? そこも、イツキらしいけど。

 私はお母様とイツキが話している間に、ジェラルドにもうひと口アイスを上げたわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。