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騎士のまかない⑲

第3話 悪臭の中の食材

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 悪臭の根源らしき場所に……近づけば近づくほど、鼻が曲がりそうだと思った。

 しかし、イツキに振り返っても……臭いに慣れたのか嬉しそうな表情でいた。それほど……美味い食べ物だと言うのか?

 俺には全く想像出来ない!?


「ありました! あれです!!」


 イツキが指を向けた方向には……見た目だけなら、美しく黄色に色づいた葉をもつ樹が立っていた。その根本に、悪臭の根源があった。

 ぐちゃぐちゃに地面が湿っていて、何か種のようなものが剥き出しになっていたが。


「イツキ? どこにも……食べ物らしきものはないが」

「いいえ、アーネストさん。あるんですよ!」


 馬はこれ以上近づきたくないから……と、手近な木に手綱を括りつけて置いてきた。

 だから今は、イツキがそこに向かって走っていくのに……止めたくても悪臭が凄過ぎて、すぐに対処出来なかった。

 たしかに、魔物は出て来ないが……あの悪臭の中に、イツキは平気で行ってしまった。ニホンの女性は慣れが早いのか??


「イツキ……大丈夫か??」


 とりあえず、後からゆっくり近づくが。どんどん酷くなる悪臭にめまいがしそうだった。


「私は大丈夫です! けど、すごいです!! 銀杏の取り放題ですよ!!」

「……ギンナン??」

「胡桃のように、殻の内側が食べられるんです」


 と言って、剥き出しになっていた種のようなものを……なんのためらいもなく掴んで……俺に見せてきたのだ!?


「う!?」

「まさか、イチョウの樹が異世界にあるなんて。茶碗蒸しや炒り銀杏とか作れるかなあ?」

「……イツキ。それを持ち帰るのか??」

「……ダメですか?」


 やはり、惚れた女性の願い事に……俺はどうやらひどく弱かった。

 次第に少しずつ慣れて来たが、それでも凄い悪臭だったギンナンと言う食材を亜空間収納に入れる前に、皮袋の中に集め。

 洗浄だけはきっちりしてから、悪臭のしない別の場所でイツキの弁当を食べることにした。


「……美味い」


 花見のときと似たメニューだったが、今回はパンポンの煮物もあったので……俺は何度もイツキに頼んで取り分けてもらった。


「ふふ。パンポンは来月になると、ちょっと特別な食べ方があるんですよ?」

「特別な?」

「日本では一年に一度……夜の長さが一番長い日があるんです。で、運気を得るために色々なことをするんです。パンポンと小豆ロッシを甘く煮る『いとこ煮』を作ったり……お風呂に柚子を入れたり」

「……不思議な風習だな?」

「現代では、だいぶ簡略化されていますけどね?」


 とは言え、それまで食材だと思われていなかったものまで口にするとは。異世界はやはり、不思議だ。

 さっき採取した……ギンナンとやらも、同じ異世界の出身である殿下はご存知だろうか? 可能性としては非常に高いが。


(……だが。せっかく、もう少し進展させようと思っていたのに)


 ギンナンもだが、イツキの食への飽くなき探究心によって……すべて、予定が崩れてしまったのだった。
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