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1巻

1-3

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「? なんなん、副団長?」

 口調も、気怠けだるい感じはいつもと変わりないように思うが……なんというか元気がないような気がする。団長に目配せをすると、気付いていたのかすぐに頷いてくれた。

「レクサス。どこか不調があるんじゃないか?」
「は? 自分が?」
「僕もそう思います。レクサス、無理をしていませんか? 顔色がすぐれません」
「そうは言うても、ちょぉはら痛いだけやし」
「ちょっと、ではないようですよ?」

 何かが起こってからでは遅いと、執務の手を止めた俺と団長がレクサスの腕を掴み、半ば引きずる感じで、強引に医務室に連れていくことになった。そして、その途中……

「あれ? アーネストさんに、ネルヴィスさん?」

 医務室の手前で、何故かイツキと出会った。レクサスを抱えていなければ、すぐにでも彼女のもとに飛んでいきたいが……彼女が女であることは料理長の意向で秘密になっている。
 団長はもともと知っているので大丈夫だが……今はレクサスがいるからそんなことはできない。

「やあ、イツキ。医務室に何かご用が?」

 俺が話しかける前に、団長がさらりと尋ねる。

「先輩方が何人か腹痛を起こしてしまって……なので、痛み止めを処方してもらいにきたんです。もしかして、ネルヴィスさんたちもですか?」
「いえ。僕ではないのですが、こちらにいるレクサスの様子が少しおかしいので……」
「レクサスさん?」
「……どぉも」

 いよいよ誤魔化ごまかしができなくなってきたのか、レクサスを見ると青白くなっている。
 これは一刻も早く、医師のバクス殿に診察してもらったほうがよさそうだ。
 俺たちが部屋の中へ入ろうとすると、イツキがこちらに回り込んで、レクサスの顔を覗き込むように見た。

「……これは」

 何か心当たりがあるのか、イツキはすぐに振り返って医務室の扉を開ける。

「「イツキ?」」
「バクス先生! おそらく食中毒患者が出ました‼」
「「食中毒⁉」」

 ひと目で、レクサスがただの腹痛ではなく食中毒と見抜いた……何故、と思う間もなく、中から看護師が何人かやってきたので、俺と団長はレクサスを預けようとしたのだが……

「イツキ君‼ 患者は何人⁉」
「一人ですが……もしかすると、城内のみなさんにも関わることかもしれません‼ 王族の方々にも‼」
「「「はああああ⁉」」」

 俺たちもだが、出てきたバクス医師も思わず声を張り上げてしまうくらい、衝撃的な言葉がイツキの口から告げられたのだった。
 イツキは何を言っているんだ? 
 レクサスだけではなく、このイージアス城の関係者、ほぼ全員が食中毒かもしれないだって? 
 俺たちやバクス医師は、彼女の突然の発言に、開いた口がふさがらなかった。

「ど、どういうことだね? イツキ君……わしもじゃが、この城……さらに陛下や王族の方々まで関わることというのは?」

 すぐに彼女に問いかけたのは、バクス医師。まだ焦りは消えていないが、きちんとイツキに事情を聞こうとしている。それに対して、イツキは強く頷いた。

「レクサスさんを見るまで気付けませんでしたが……予感はしていたのです。ひとまず、レクサスさんを中に‼ 説明はそれからです」
「う、うむ‼ そうじゃな‼」

 俺と団長も我に返り、バクス医師とともに中に入り……救護ベッドの上にレクサスを寝かせてやる。執務室にいたときよりも、レクサスはだいぶ顔色が悪かった。

「レクサス! 大丈夫か⁉」
「アーネストさん、刺激を与えすぎてはダメですよ! 振動だけでも、レクサスさんにとっては辛いと思います」
「そ、そうか……」

 イツキは医学にも精通しているのか? 先ほどの発言もだが、やけに詳しい……とりあえず、俺は団長とともに壁際に寄り、イツキはバクス医師の質問に答えるために彼の横に立った。

「……ううむ。これは、確かに食中毒の初期症状じゃな。顔色、心臓の鼓動の速さに加えて呼吸の乱れも……しかし、原因となった食べ物は一体何だというのだ。王宮の料理に使われる食材は厳選されたものばかり……食中毒が起こるなんて……イツキ君、何故わかったのだ?」
「こうなる可能性をずっと考えていたからです。治療方法は?」
「そうじゃな……解毒薬を飲ませればいくらか落ち着くじゃろうが、魔法をかければ一発じゃろう」
「……そのお薬、ですが」
「うむ?」
「魔物肉を食べることで蓄積された『魔素』を消すことはできますか?」
「「「「はぁあああ⁉」」」」

 またもや、イツキの見解に俺たちは驚きを隠せなかった。
 イツキの発言によると魔物肉によるものらしいが、これまで食べてきて特になんともなかったし、きちんと火を通して毒素は消しているはずだが……

「あの、今は早くレクサスさんを‼」
「お、おお。そうじゃな……儂が回復魔法をかけよう。君は少し離れていなさい」
「はい」

 言われたとおり、イツキは少し距離を置いて下がった。
 後ろ姿からレクサスを心配する様子がひしひしと伝わってくる……こんな大変なときなのに、俺がこうなっても同じくらい心配してくれるだろうかと、だいぶ不謹慎ふきんしんなことを考えてしまった。

「……暗雲よ、晴れわたれ。渦巻うずまく暗雲よ、去れ。この者に慈悲じひ息吹いぶきを」

 バクス医師が、高位の回復魔法を詠唱した途端……室内が白く光った。

「先生、成功です!」

 看護師の一人がレクサスの容態を見て伝える。
 俺と団長が駆け寄ると、レクサスは顔色も落ち着いて、ベッドの上で静かに寝息を立ていた。

「……よかったです」

 両手を祈るように強く握っていたのか、イツキの手が赤くなっている。

「彼の心配はもう無用じゃ。ところでイツキ君、話の続きなのじゃが……」
「わかりました。その……勝手な想像なのですが」
「「「うんうん」」」

 俺もだが、団長も気になっているようだ。

「料理長が魔物肉を扱うようになって、まだ数年程度。今はこの程度で済んでいますが、含まれる魔素が微量であっても、身体の中で蓄積されることで毒性がどんどん強くなっていくんじゃないかと」
「! きちんと火を通して、毒性を十分なくしていてもダメなのか?」
「適切な処置をほどこさなければ微量の魔素は残ってしまいます。あと気になったのですが……王族の方々は魔物肉がたくさん使われたフルコースを、毎日召し上がっていますよね? もしかするとお身体に異変が出てきてしまうのではと……」
「しかし……毎朝の診察をさせていただいたときは何も」
「何か起こってからでは遅いです。体内の魔素量を検査していただけませんか?」
「そ、そうじゃな……儂に任せるのじゃ」

 まずは俺と団長から。バクス医師に診察してもらうと……俺も団長も、あと一歩のところで食中毒になるところだったらしい。すぐにバクス医師から解毒薬を飲むよう指示された。
 ものすごく苦かったが、飲んでみると、しばらく続いていた胃もたれがすっと消えていくようだった。これはつまり……イツキと出会ったあの日の晩にも、すでに食中毒の予兆があったのか?


     ◇ ◇ ◇


「……俺の発見が、リュカルドたちの健康を害していたのか」

 陛下への報告は団長が行い、俺は厨房までイツキを送り届けた。
 レクサスはまだ完全に回復していないので、医務室で寝ているところだ。
 厨房に着くと、イツキから料理長に、先ほど起きたこととイツキの見解が伝えられた。料理長はひどく落ち込んでいた。

「全てが料理長の責任というわけではないと思います。魔物のお肉が美味しいのは私も十分理解していますし、きちんと陛下にご報告しましょう? 早く対処しないと、国内外に中毒者が増えてしまうかも」
「……そうだな。だが、なんで今なんだ? 俺が魔物肉を食えることを発見してからそこそこ経つぞ?」
「……これはまた私の推測ですが」
「聞かせてくれ」
「私の故郷で得た知識ですが、瞬時に効く毒もあれば、蓄積していくことである日突然身体に現れる毒もあります。魔物肉の場合は後者でしょう。魔素は魔法を扱ううえで大事なものだと理解しています。しかし、空気中に含まれる魔素や魔法を使う際に体表から吸収される場合と、口に含むことで体内に取り込まれる場合では、身体への影響が全然違うのではないでしょうか」
「「……」」

 そんなことは全く予想ができなかった……

「しかし、イツキ。君が以前俺に作ってくれたまかないには魔物の肝が入っていたが……」
「魔素が毒になる可能性に気付いたときに、解毒の方法を自分で色々試してみたんです」
「「試した?」」
「実は最初に料理長のご飯をいただいたときに少しお腹を壊してしまって……」
「なんで言わなかった⁉」
「勘違いかと思っていたので……」
「はぁ……俺も強くは言えんが、自分で実験するな‼ ってことは、肝を下処理する方法は……」
「はい! いくつか試したうえでの成果です! 炭には浄化作用があると知っていたので、魔物にも使えるかなと思って……」
「わかったから‼ 心配だから次はやる前にきちんと俺に報告しろよ?」

 料理長はイツキの額を軽く指ではじいた。

「……とにかく、まずは城内の方々の治療が優先です。バクス先生に魔法薬の量産をお願いしましたが、それと同時に、あともう一つやらなければいけないことがあります」
「もう一つ?」
「フルコースの制度をなくすことはできないでしょうか?」
「「はぁああああ!!?」」

 治療から、何故そんな話になる⁉ 俺と料理長は驚いて呆然としていたが、イツキはいたって真面目な表情をしていた。

「魔素の他にもう一つ、フルコースに食中毒の原因があるかもしれないからです。慣習は大事ですけど、城内の方々の健康が最優先です」
「……原因って……なんだ、そりゃあ?」
「単純な食中毒問題ですよ。料理の腐敗です」
「ふ、腐敗?」

 確かに俺たちは冷めた食べ残しを口にしていたが、フルコースが……腐っている? 
 料理長と俺は信じられないとイツキのほうを見たが、イツキは強く頷いているだけだった。
 それから……団長が厨房にやってきて、謁見えっけんのために玉座の間に来るように俺たちに告げた。
 謁見の間に行くと、すでに陛下は玉座に腰かけていた。
 王妃殿下や王女殿下は、ご在席ではないようだった。
 俺や団長はともかく、イツキは作法を知っているのだろうかと不安に思ったが、横にいた料理長を真似して瞬時に対応していた。彼女は教養が深いらしい。優しくて聡明だなんて、ますます惚れてしまうじゃないか……
 陛下の前で腑抜けた顔はできないので、すぐに気を引き締める。

「……そなたが、ワルシュのもとで働いている新しい料理人か?」
「それだけじゃねぇぞ? 俺の養子むすこだぜ、リュカルド」
「……は?」

 陛下と料理長は、王立学園時代の同級生で悪友である。
 これはイージアス国内では有名な話だ。
 だから、料理長はこのような砕けた物言いで陛下と語り合えるのだ。ちなみに、陛下への呼び方は愛称で……本名はマーリュカルド様だ。
 陛下は料理長とイツキの関係を聞かされていなかったのか、ものすごく驚いていた。

「事実だ。んで、料理の腕前も下手すりゃ俺以上だ」
「ま、待て待て‼ 養子? いつからだ⁉」
「だいたい二か月前だな」
「……そんな重大なことは、さっさと教えろ‼ っと……すまない取り乱した。彼の名は?」
「イツキ・エイペックと申します。陛下」
「そ、そうか。イツキ……此度こたびは、城内での異常に気付き……バクスに適切な処置を教えてくれて感謝する。我々も診察してもらったが……王族も食中毒になりかけていた」
「「「!!?」」」

 やはり、イツキの推測は正解だった。であれば、いよいよ……フルコース料理のことも進言せねばならないか。てっきり料理長が言うのかと思っていたら……

「陛下。折り入って、お願いがございます」
「なんだ?」

 イツキが、言うのか⁉ 今日、初めてお会いする陛下へみずから⁉
 料理長に対する物言いもだが、彼女は怖いもの知らずだな……とりあえず、俺は彼女を見守ることにした。

「此度の食中毒ですが……魔素だけが原因ではございません」
「何?」
「魔素も原因の一つなのですが、より問題なのは、フルコースという慣習のほうなのです」
「……意見を聞こう」

 イツキの言葉に、陛下も耳を傾けている。

「この国のフルコースでは、事前に大量の料理を作り置きするため、食べ物の腐敗が起きてしまっているのではないかと思うのです」
「腐敗? ワルシュたちが作ってくれる料理はいつも美味いが……」
「儀式のため、より多くの食事を一度にテーブルに並べ、召し上がっていますよね? 空調設備も整っていない室内で長い時間放置された料理は、少しずつ少しずついたんでいきます。さらに、満腹になってもなお無理やり魔物肉を食べなければならないフルコースは、長期的な目で見ると、毒素が蓄積されてしまうのでとても危険です」
「……対策は、ないのか? フルコースは三百年の歴史を持つ我が国の大事な慣習なんだ」
「不躾なことを申し上げて大変恐縮なのですが……これまではもちろん、王族の方々はここ数年、特に体調を崩されることが多いのでは?」
「なっ⁉ 何故それを!」

 陛下が驚くのも無理はない。それは城内でも禁忌きんきとされる話題。
 何故他国からきたイツキが知っているのだ? 
 俺を含めて、この場にいる者たちは全員驚いていた。

「傷んだ料理に魔物肉……身体に悪いものを口にし続けていたら、免疫力が落ちて体調を壊しやすくなるのは自然なことですから……」
「……ふむ。これは本格的に考えなくてはならんかもしれぬな」
「お願いします、陛下。城内の方々にこれ以上何か起こってからでは遅いのです。臣下の方々に加え、王妃様や王女様にまで危険が及んでしまってもよいのですか⁉」

 イツキの出身は他国だが、この国の人々のためにこんなに考えてくれている……
 俺にはイツキが慈愛の女神のように見えていた。陛下はしばらく考えていたが、我ら臣下のことだけでなく、ご家族である王族のことも思ってか、少しして苦笑いを浮かべると、こう言った。

「……わかった。バクスも同席させたうえで、大臣や神官らにかけあおう」
「! ありがとうございます‼」
「いや、礼を言うのはこちらのほうだ」

 三百年続いた王家の重要な慣習が、一人の女性の意見でなくなるかもしれない。
 これはすごいことになったぞ……‼


     ◇ ◇ ◇


 翌日にはバクス医師により、フルコースの料理が原因で、食中毒ないしはそれ以上のやまいになりかねないことがおおやけに発表された。
 陛下を含めた王族の方々は、魔素による毒に侵されて、症状があらわれる寸前だったらしい。
 診察を開始すると、症状のある者がちらほらと出てきたが、原因があらかじめ判明していたので、魔法薬や回復魔法ですぐに対処できた。
 レクサスも二日後には目を覚まして、起き上がれるまでに回復した。
 よくよく考えれば、レクサスは残っていたフルコース料理を人一倍食っていた記憶がある。
 だから余計に症状が重かったのだろう。

「いや~、たまげたわ」

 それからしばらくして……医務室から療養室のベッドに移ったレクサスは、俺が持ってきたリンゴを頬張れるぐらいに回復していた。

「……だろうな。進言したのはイツキだが、お前が体調を崩したのがきっかけで、まさかフルコースがなくなるとは」

 陛下はイツキの提案を受け入れ、大臣や神官たちもまじえて何度も何度も会合を重ねた。
 その結果、供物としての献上品は神殿にそなえて、王族の食卓に並べるのは通常の食事にすることになったそうだ。
 そのため、俺たち宮仕えの騎士の重大な仕事だった『フルコース』の処理は廃止された。
 また、臣下専用の食堂も作られる予定だそうで、そこには厨房も併設されるらしい。
 これでいつでも出来立ての料理を食べられるようになる。
 食堂で食べられない場合は、事前に頼めば弁当も予約できるらしい。

「いや、それもたまげたけど……自分が気になったんは副団長のことやで?」
「俺?」

 いきなりなんだと思っていると、レクサスはリンゴを綺麗に食べ終えたあと、こう続けた。

「自分が倒れる寸前に会った料理人……あの嬢ちゃんやろ? 副団長が惚れてんの?」
「な⁉ レ、レクサス、どうしてイツキが……」
「男の恰好かっこうしてるのに、なんで女なのかわかったかって? いや、随分ずいぶん雑な男装やん? なんであんなことしてんの? 副団長の態度もわかりやすすぎやし」
「……料理長の意向だ」
「ほーん?」

 一番面倒そうなやつに、イツキの性別と俺の気持ちがバレたことに辟易へきえきしていると……

「こんにちはー」

 そのイツキが、笑顔で部屋に入ってきたのだ。

「お? イツキはん?」
「こんにちは、レクサスさん。あ、アーネストさんもいらしてたんですね!」

 レクサスとすでに親しげ……とやきもきしたが、俺の顔を見て笑顔になってくれた彼女に心が浮わついて、自分の単純さに呆れてしまう。

「や、やあ……イツキ」
「アーネストさんも、こんにちは。お見舞いに来たんですけど……お加減はどうです?」
「おん。前も言ったけど、バクスじいちゃんの回復魔法でもうほとんど平気や」
「それはよかったです。お菓子作ってきたので、お二人ともいかがですか?」
「食べるわ!」
「ぜひ、食べさせてくれ!」

 一体どんな菓子か気になって待っていると、イツキは持ってきた包みを開け、中から大きめのクッキーのような焼き菓子を取り出した。水筒も用意してくれているようだ。

「ガレット・デ・ロワというお菓子です。甘さは控えめなので病み上がりでも食べられると思います」
「いただくわ~!」
「いただこう!」

 崩れやすいと注意を受けそっと一つ手に取ると、しっかりとした重みと厚さがあり、表面には格子のような模様と美しい焦げ目がついている。
 食べるのがもったいない気もしてきたが、イツキの手料理を食べるのは久々だったので、ありがたく口に入れようとすると……

「うんま~~‼ めっさ、うんま~~‼」

 レクサスがすでに横で頬張っている。おまけにいつのまにかイツキが水筒から茶を淹れてくれていたようで、それも一緒に飲んでいるではないか‼
 俺もはやる気持ちを抑えて口にする。崩れやすいと先ほどイツキが言っていたが、確かに軽い食感が特徴的だ。ほろほろと舌の上で崩れて、そのたびに甘さが口に広がる感覚が楽しい。
 一口……また一口と夢中で頬張ってしまう。香ばしさと上品な甘さがちょうどよく、むしろ今まで食べてきた菓子は甘さが強すぎると思えるほどだ。

「はい、アーネストさんもお茶いかがです?」
「……ああ。いただく」

 あっという間に一つを食べ終えたところで、イツキが俺に水筒の茶を渡してくれる。カップはあらかじめ用意していたのか、レクサスとは別のものを差し出してきた。
 レクサスを見るとニヤついている……完全に面白がっているが、どうやらイツキのことを狙っているわけでも、俺のことを嫌っているわけでもなさそうだ。
 カップを受け取ったときに彼女の指先に触れてしまったので、謝罪をしようとイツキの顔を見たら、何故かイツキの頬がうっすらとピンク色に染まっていた。


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