王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

隊長のまかない⑥

第4話『絶品うなぎの蒲焼き』③

　悪人面で有名であるワルシュ料理長の表情をここまで……！？　婚約者であるサーシャ殿の前でもこのようになることは……僕の知り得る限りではなかったはず。

　それほど……カバヤキの中に入れたお湯のようなものが美味しかったのでしょうか。

　このままでも十分に美味しいカバヤキがさらに美味に……僕も興味が湧いてきました！！


「イツキ、僕にもお願い出来ますか！？」

「はい。あ、せっかくなのでちょっと待ってください」


　お湯を入れる前に……イツキは何故か、僕の器に白いゴマをふりかけた後にお湯を入れてくださいました。

　入れたことで、カバヤキの甘辛い香りと……お湯の中にある芳しい香りが一緒になり、なんとも言い難い良い香りとなりました。

　早く口にしたかったので、スプーンを借りてまずはお湯の部分を飲むと……！？


「…………なんと優しい！？」


　これは……ただのお湯ではありません！！　香りと同じような、薄らと香る何かがほのかな塩気と旨味を含み……甘辛いカバヤキをちょうど良い濃さにしてくれました。

　あとで加えた、ゴマの香ばしさも、カバヤキとよく合います。ふやけた米リーゾが、少しお粥のようで食べやすい。

　この食べ方は、革新的でした！！


「これは出汁茶漬けと言います。うなぎや濃いめに味付けた、お肉やお魚の料理の後には……出汁という調味料を温めたりしたものを、こんな風に米リーゾにかけて食べるんです」

「……このような食べ方が？」


　リュシアーノ様は、おそらくご存知のはずです。単純に米リーゾと食べるだけでも美味しかったですのに、スープのようなものを加えても美味しいとは。

　これが……あの方がおっしゃっていたように、市民などへの活力に繋がる食事になれば……国民達の英気を養える良い食事になるでしょう！！

　しっかり味を堪能してから、僕も焼きに挑戦しましたが……なかなか上手くいくわけもなく。

　結果的に、リュシアーノ様の口にするのはイツキが手がけたカバヤキドンになりました。


「美味しい！！」


　お夕飯を僕らと食べる理由にして、リュシアーノ様は僕とイツキと共に、いくつかのカバヤキドンを食べることになりました。


「長芋が手に入ったので良かったです」


　イツキが作った、更なるカバヤキドンは。


　ナガイモを使った、『ヤマカケ』。

　卵を使い、オムレツのように巻いたり。

　シラヤキは敢えて、蒸す工程を使って塩だけでなくショーユで。


　これに、サンショウやワサビという香辛料があれば、文句はなかったとイツキは言っていましたが。


「うなぎをこのように……シラヤキとあのカバヤキだけではないのですね？？」

「あと、蒲焼きと茄子でフライにも出来ます。茄子がトロトロで……蒲焼きのタレによく合って美味しいですよ？」

「イツキ～！！　食べたくなっちゃう！！」

「ふふ。また明日以降に」


　僕とリュシアーノ様共通の友人は。

　こちらが嫉妬しそうなくらいに、僕の婚約者を人一倍喜ばせるのがお上手です。

　なのに、イツキの慈愛の女神のような微笑みのお陰で、それが欠片も浮かんで来ないんですよ。アーネストは、本当にいい婚約者を得ました。

　その後、カバヤキについては味はいいものの調理が難しいことで、城下町の酒場では提供に苦戦することになりましたが。

　ワルシュ料理長が直々に生産ギルドで腕前を披露してくださったことで、やる気を上げた料理人達が少しずつ上達していったとか。