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メイドのまかない④

第1話 王女の提案

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(……私はこの場に居ていいのだろうか?)


 そう思えるくらい、今日の出来事はいきなり起きたのだった。

 あれは、数時間前に……リュシアーノ王女殿下がいつものように、イツキ殿とのお茶会を終えた後のことだ。


「サフィア!! 準備を手伝って!!」

「……殿下?」


 なにの準備についての言葉が抜けるなど、殿下には珍しい。それに、殿下のお顔がいつも以上に輝いていらっしゃるように見えるのだ。

 すると、殿下の後ろからイツキ殿が苦笑いされながらやって来られた。


「すみません。リュシアーノ様は、離宮かどこかで『バーベキュー』をやりたいとおっしゃって」

「……バーベキュー……とは?」

「簡単に言いますと、お肉や野菜を焼いてソースにつける食べ方です。他にも調理法は色々ありますが……準備も色々必要なので」

「……肉や野菜ですか。しかし、それですとお食事とかでも大丈夫なのでは?」

「わかってないわね、サフィア!」


 と、私達の会話に殿下がさらに興奮された勢いで割り込んできました。


「? 私がですか?」

「イツキに聞いたの。バーベキューは、親しい人達と一緒に食卓を囲んで、好きなものを好きなだけ食べられるのよ!! サフィアもレクサスと一緒にご飯食べたくなくて?」

「そ、それは……」


 たしかに、ここのところ猫との触れ合い時間もあまり取れないくらい……レクサス殿はお忙しいようだ。これまで、昼寝などでサボっていた執務をすべてこなすと言わんばかりに。

 なので、デートもだが最近ほとんど会えていない。それは少し……いいえ、結構淋しさを感じていた。


「でしょう? 私もネルを誘いたいし、イツキはアーネストでしょ? お父様達にもお願いして、そのバーベキューをしたいの!!」

「……かしこまりました。手配はどのように?」

「えーっと、レンガや炭に大きな金網とかですね? 食材については私から料理長に聞いてみるので」

「まずは、先にお父様を突破するわよ!!」


 ラインシード様とご婚約されてからだが……本当に殿下は色々と意欲的になられた。

 悪いことではないが……ご勉学の成績もたしかに上がっているので、息抜きに食事をするのはいいかもしれない。

 とりあえず、殿下がおっしゃったように……バーベキューについては、陛下もイツキ殿が説明された内容に乗り気になり。王妃殿下ももちろんお呼びになって、離宮のはずれで開かれることになったが。

 調理にはイツキ殿がいらっしゃるとは言え……王女殿下付きのメイドひとり以外の宮仕えがいなくていいのだろうか?

 レクサス殿やハインツベルト様も手伝いはしてくださるのだが……改めて思う。私だけいいのだろうか??

 バーベキューの、美味しそうな香りに既に完敗しそうになってしまっているのに!!
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