王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ

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令嬢のまかない②

第1話 騎士を目指す者

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 イツキ殿がいらっしゃってから、年も明けて数ヶ月。

 アーネストの兄上は仕事が忙しいのか、イツキ殿を独占されたいのか……あれ以降、この屋敷にお連れすることはなかった。


(将来の義姉上になることは決まったのに……)


 さすがに、円月えんげつの頃にご婚約された報せだけは父上に届いた。あの報せで私もだが母上やティア義姉上がどれだけ喜んだのか……アーネストの兄上は知らないでしょう。

 とは言え、私のすべきことは決まっている!!


「はぁああああああ!!」

「なんの!!」


 今日も今日とて、アーネストの兄上のように近衛騎士になるために……稽古に励んでいた。

 お相手は、長兄のイシュタルト兄上であるが……アーネスト兄上に劣るとは言えど、日夜鍛えていらっしゃるから一撃一撃が重い。

 身軽な女である私は、こう言う時に自分の性別が女であることを疎ましく思ってしまう。


「まだまだ!!」

「いいぞ、アイシス! もう少し踏み込んでこい!!」


 などと、兄上に誘い込まれるような煽りを受けたが……結局今日も勝てなかった。

 しかし、それでも上達しているとのお言葉をいただけたのだ。


「本当ですか! 兄上!!」

「ああ。まだまだ攻撃は軽いが、逆に打ち込むことを重点的に極めれば……相手を惑わせることも出来るだろう」

「ありがとうございます!!」


 であれば、父上に許可をいただいて狩りに出るのもいいかもしれない。なかなか許可をいただけなかったが、近衛騎士を目指すとイツキ殿の前で宣言した日から……私は淑女のマナーもきちんと学べば、と言う条件を言い渡され、稽古にも打ち込むことが出来た。

 どちらもこなせている今なら、父上からもお許しをいただけるだろう。

 そして、稽古が終わってから父上のところへ行くと。


「うーん。イシュタルトがそう言うのであれば」


 いささか渋いお顔になられましたが、これまでと違う雰囲気なのは分かった。


「決して、深追いしません!! 退却もきちんと致します!! なので!!」

「……わかった。とりあえず、ギルドに行って仮から正式な冒険者に登録してもらいなさい。私からギルマスには承認証を出そう」

「ありがとうございます!!」


 お許しを得られたので、今日のだいたいの予定は終わった。

 淑女としてのレッスンなども特にない。

 暇になってしまったが、以前だと何かしら稽古か男装の練習をしていたのに……男装については、イツキ殿とお会いしてからあまりしなくなった。

 あの方のように、美しく凛々しい女性を見てしまったことで己の男性への憧れなどの考え方が変わってしまったのだ。


「! イツキ殿と言えば」


 あのアボカドを使った料理などを振る舞ってくださった。

 あれはあまり難しくはなかったが……これまで、稽古やレッスン以外で何かをすることのなかった私でも、出来るだろうか??

 料理長のヨルダンに聞いて、少しやらせてもらえないか。

 そうと決まれば、ドレスをシャツとズボンに変えてからにしようと自室に向かった。
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