王宮まかない料理番は偉大 見習いですが、とっておきのレシピで心もお腹も満たします

櫛田こころ

文字の大きさ
上 下
164 / 784
隊長のまかない④

第4話 王女の本音

しおりを挟む
 そんなことを考えていた時……執務室の扉からノックが聞こえてきました。


「ネルー! 私だけど!!」


 声の主は、僕が愛してやまないリュシアーノ王女殿下ご本人でした。わざわざ御自らノックをされると言うことは、供人を連れずにおひとりで来られたのでしょう。

 とは言え、僕に拒否する理由にはなりません!!


「いらっしゃいませ、リュシアーノ様」


 扉を開ければ、今日も素敵に愛らしい僕の婚約者が大きな箱を手に持っていらっしゃいました。


「賑やかだったけど、誰かいるの?」

「アーネスト達以外にイツキが」

「そうなの?」


 中に入っていいか聞かれたので、もちろんだと僕は招き入れました。


「あ、リュシアーノ様」


 イツキがこちらに気づくと、ふわっと笑みを浮かべた。その微笑みにアーネストの顔が真っ赤になるのは無視しましょう。


「こんにちは。チョコレートの匂いがするけど……何か食べていたの??」

「今、ホットチョコレートと言う飲み物を」

「……ホットチョコレート??」


 リュシアーノ様が転生者と言う真実は、僕とイツキ以外知らせていませんからね?

 なので、リュシアーノ様は何も知らない子供のフリをされました。


「ネルヴィスさん達から、チョコレートを無駄にしないための対策をお願いされまして……なので、ホットチョコレートと言う飲み物を提案したんです」

「……そう。これ、要らないかしら??」


 おおよそ、予想はしていましたが……やはり、リュシアーノ様が手にされているのはチョコレートの箱でしょう。

 レディ方には申し訳ありませんが、他所と婚約者とでは事情が違います!!


「そんなことはありません、リュシアーノ様!」


 僕は彼女の前にひざまずき、手にされている箱を持つ手に自分の手を重ねました。


「……もらってくれる??」

「もちろんですよ」


 ひょっとしたら、イツキと合同で作られたかもしれませんがリュシアーノ様はまだまだ体は幼児ですからね?

 そこはどうしても仕方がありません。


「……あんな蕩ける微笑み、凄いわぁ」

「殿下限定だからな……」


 外野は無視、無視です!

 ホットチョコレートは美味しかったですが、リュシアーノ様のチョコレートも当然味わいたい。

 僕は、後の事をアーネスト達に任せて離宮の方へ殿下と一緒にお茶会をすることにしました。


「……不恰好だけど」


 箱の中身は、普通のチョコレートではありませんでした。

 焼き菓子……ケーキのようにも見えます。しかしながら、とても美味しそう。

 メイドらに、切り分けなどをお願いしてから……リュシアーノ様は悩ましげなため息を吐いたのでした。


「ネルもだけど、近衛騎士団は皆人気ね?」


 以前とは違い、『ワカナ』の記憶があるリュシアーノ様にとって、今は僕がチョコレートを受け取ることが嫌なのでしょう。

 そんな感じに見えました。


「……僕の唯一は貴女様だけですよ?」

「わかっているわ。けど、ライバルが多いもの」


 ぷん、と音が聞こえるくらい愛らしく不機嫌になられたリュシアーノ様を見ると。

 どうしても、愛しさが込み上げてきて……つい、席を立って彼女の柔らかな金髪に唇を寄せてしまいました。
しおりを挟む
感想 319

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。