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騎士のまかない⑩

第4話 意外な失敗

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 スケート解放は言葉通りに、冬の季節に各地で氷魔法が得意な者が集結して……スケートリンクを開放するのだ。

 イツキにそれを話すと、行ってみたいと言わんばかりに……顔を輝かせたのは忘れられない。

 なので、休暇を合わせてジェイシリアに行くことにしたのだ。

 生産ギルドを出てから、俺達は会場である中央広場に向かう。人混みがどんどん多くなってきたら、俺は迷うことなくイツキの手を握って引き寄せた。

 城では多方面で公認になったとは言えど、俺もだがイツキもひと前であまりいちゃつく性格ではない。廊下で堂々と腕組みするのも以ての外だ。だから、こう言う場合でしか大胆になれないくらいの小心者だ。

 イツキも俺の手をしっかりと握ってくれてから、ふたりで人混みに流れつつも会場に向かう。

 到着すれば、生産か冒険者かはわからないがギルドの職員が誘導して、リンクで滑って良いように並ばせていた。

 俺達もその列に並び……そこそこ待っていると準備がやってきたが。


「……靴で滑れるんですか??」


 そうだろう? と普通なら言うが、彼女の場合は違う。公にはしていないが、彼女は異世界からの渡航者。

 食材の有無などは、あまり不便していないらしいが……彼女のいた世界には魔法がなかったらしい。だから、靴にかける特殊魔法も知らないのだろう。


「……少し特殊な魔法を靴にかけるんだ。だから、滑ることは可能だ」

「! そうなんですね!」


 そして、職員からそれぞれの靴に魔法をかけてもらい、俺はイツキの手を引いて氷の上に足を乗せた。


「さ、こっちに」


 魔法をかけてあるとは言え、きっと慣れない経験で足を滑るかもしれない。両手を引いて、イツキがゆっくりと氷に足を乗せたが……ものの見事に、その場でひっくり返ってしまった!?


「いったたた……!?」


 これまた見事に尻から氷に打ち付けてしまい、俺はイツキを抱きかかえてリンクの端に移動した。出口は入口と逆方向だからだ。


「すまない、出よう」

「え、もう!?」

「しかし……あれでは君が怪我をするだけだ」

「いえ、挑戦させてください!」


 俺に抱えられているのに、羞恥心よりもリンクへの好奇心がまさったのか。イツキはそれから頑張って、俺に支えられながらも……頑張ってリンクに慣れた結果。

 俺の心配以上に、もともとはこう言う運動が得意だったのか。補助が要らなくなると……ひとりで見たこともない技を色々披露してくれた。

 それが、他の参加者が観客になるくらい。

 だとすると……と、俺はイツキがリンクに満足してから、エマの店に連れて行った。これ以上、イツキの魅力を見知らぬ男どもに見せつけたくなかったからだ!!


「きゃっはっは!? アーニーったら、いっちょまえの男ねん?」


 エマの店でも、イツキの技の評判はもう伝わっていたらしく。イツキの服選びをしながらも、俺は奴に盛大に笑われてしまった……。


「エマさん! 豚汁出来ました!」

「きゃぁ!? ありがとう!!」


 そして、エマからの厚意で服の代金を安くする代わりに……温かい冬用のレシピを教えてくれとせがまれたのだ。材料はギルドと違い、野菜は勢揃いではなかったが……俺も一杯もらったがバターを入れたので美味かった。

 あと少しで、春の季節が近いが……イツキは元の世界に帰る事はない。そう確信があるはずなのに、小心者の俺はまだまだ不安だった。
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