136 / 782
まかない婦のまかない④
第4話『揚げ角煮丼』②
しおりを挟む
表面はサクサクと揚がった衣。
内側はトロトロふわふわの角煮。
うなぎの蒲焼きとか天丼のように、たっぷりとタレはご飯に染み込ませて。本当は練り芥子があれば良かったが、一味やわさびもまだ見つかっていないので断念。
揚げ角煮丼を持っていくと、アーネストさんはさらに顔を輝かせてくださった。
「美味そうだ……!」
「どうぞ。召し上がってください」
「いただこう!」
私もついでにと、いただきますをして食べることにした。菜箸はあったが、普通の箸がなかったのでここはスプーンとフォークで。フォークでまず、サクッと揚がった角煮を持ち上げ……カプリとひと口。
「「~~~~!!?」」
アーネストさんとほぼ同時に食べたようで、彼も顔がいつも以上に綻んでいた。
「!! イツキ!! あの柔らかいだけのも美味かったが、揚げるとさらに美味い!!」
「んん~~!! この揚げ加減難しいですけど、出来ちゃうとご飯何杯もいけちゃいます!!」
「米にソースだなんて、普通では考えられないからなあ? これは、食堂向きだろう」
「けど、ほんとは和芥子が欲しいとこですが」
「ワガラシ??」
「味のアクセントになる香辛料のようなものです」
この角煮を揚げただけでも十分に美味しいのは頷けるが……味が濃いものはだんだんと飽きが出てしまう。その合間に、和芥子があれば口の中をリセット出来るのだ。この中央厨房には、先代の料理長の趣味で東方大陸の食材に道具もあるから……梅干しもあったし、探せばあるかもしれない。
とりあえず、アーネストさんにも説明すると……彼は首をひねってしまった。
「このままでも充分に美味いのにか?」
「うーん。以前のフルコースでの食べ残し……アーネストさん達大変でしたよね?」
「ああ」
「途中味を変えたいと思いませんでしたか?」
「? それがそのワガラシとかだと可能なのか?」
「気分転換にも出来ますし、逆に食欲が増します」
サクサク、中はふわふわトロトロの角煮もたしかに美味しいが……これが需要したら、味変はきっと欲しいはず。マスタードに似た調味料はあっても、あれは酸味が強いから角煮には合わない。
けど、明日のお弁当組にはカツサンドを仕込むのもいいかもしれない。お弁当メニューは朝に決めるから、料理長達には提案しよう。
「味を変える……面白いな? イツキの世界の料理はこの世界以上に食が豊富なんだな?」
「そうですね? あと機械……道具の発展も様々でした。逆に魔法とかがないので……環境破壊とかも目立っちゃって」
「魔物は?」
「害虫はありましたが、いませんね?」
「平和……だな」
「世界すべてではないですが。私のいた国は、戦争はなかったです」
代わりに殺傷事件などは時折あったが……こちらの世界ほどではないはず。私もだけど、転生されたリュシアーノ様は……。
今は幸せいっぱいだが、どうしてこの世界に来てしまったのだろう。神様とか誰かが答えてくれることはないようだが。
「……もう、無くなった」
ちょっと考えていたら、アーネストさんは角煮丼をすぐに平らげてしまったので。角煮は普通のにして、煮卵と大根煮を温め直してから……素敵な笑顔で召し上がってくださった。
(帰れなくても、この人がいるから……)
将来の約束をしたいと思う相手が出来たのだから……私は前ほど日本に帰りたいとは思わなくなってきていた。
内側はトロトロふわふわの角煮。
うなぎの蒲焼きとか天丼のように、たっぷりとタレはご飯に染み込ませて。本当は練り芥子があれば良かったが、一味やわさびもまだ見つかっていないので断念。
揚げ角煮丼を持っていくと、アーネストさんはさらに顔を輝かせてくださった。
「美味そうだ……!」
「どうぞ。召し上がってください」
「いただこう!」
私もついでにと、いただきますをして食べることにした。菜箸はあったが、普通の箸がなかったのでここはスプーンとフォークで。フォークでまず、サクッと揚がった角煮を持ち上げ……カプリとひと口。
「「~~~~!!?」」
アーネストさんとほぼ同時に食べたようで、彼も顔がいつも以上に綻んでいた。
「!! イツキ!! あの柔らかいだけのも美味かったが、揚げるとさらに美味い!!」
「んん~~!! この揚げ加減難しいですけど、出来ちゃうとご飯何杯もいけちゃいます!!」
「米にソースだなんて、普通では考えられないからなあ? これは、食堂向きだろう」
「けど、ほんとは和芥子が欲しいとこですが」
「ワガラシ??」
「味のアクセントになる香辛料のようなものです」
この角煮を揚げただけでも十分に美味しいのは頷けるが……味が濃いものはだんだんと飽きが出てしまう。その合間に、和芥子があれば口の中をリセット出来るのだ。この中央厨房には、先代の料理長の趣味で東方大陸の食材に道具もあるから……梅干しもあったし、探せばあるかもしれない。
とりあえず、アーネストさんにも説明すると……彼は首をひねってしまった。
「このままでも充分に美味いのにか?」
「うーん。以前のフルコースでの食べ残し……アーネストさん達大変でしたよね?」
「ああ」
「途中味を変えたいと思いませんでしたか?」
「? それがそのワガラシとかだと可能なのか?」
「気分転換にも出来ますし、逆に食欲が増します」
サクサク、中はふわふわトロトロの角煮もたしかに美味しいが……これが需要したら、味変はきっと欲しいはず。マスタードに似た調味料はあっても、あれは酸味が強いから角煮には合わない。
けど、明日のお弁当組にはカツサンドを仕込むのもいいかもしれない。お弁当メニューは朝に決めるから、料理長達には提案しよう。
「味を変える……面白いな? イツキの世界の料理はこの世界以上に食が豊富なんだな?」
「そうですね? あと機械……道具の発展も様々でした。逆に魔法とかがないので……環境破壊とかも目立っちゃって」
「魔物は?」
「害虫はありましたが、いませんね?」
「平和……だな」
「世界すべてではないですが。私のいた国は、戦争はなかったです」
代わりに殺傷事件などは時折あったが……こちらの世界ほどではないはず。私もだけど、転生されたリュシアーノ様は……。
今は幸せいっぱいだが、どうしてこの世界に来てしまったのだろう。神様とか誰かが答えてくれることはないようだが。
「……もう、無くなった」
ちょっと考えていたら、アーネストさんは角煮丼をすぐに平らげてしまったので。角煮は普通のにして、煮卵と大根煮を温め直してから……素敵な笑顔で召し上がってくださった。
(帰れなくても、この人がいるから……)
将来の約束をしたいと思う相手が出来たのだから……私は前ほど日本に帰りたいとは思わなくなってきていた。
44
お気に入りに追加
5,502
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
【創造魔法】を覚えて、万能で最強になりました。 クラスから追放した奴らは、そこらへんの草でも食ってろ!
久乃川あずき(桑野和明)
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ『面白スキル賞』受賞しました。
2022年9月20日より、コミカライズ連載開始です(アルファポリスのサイトで読めます)
単行本は現在2巻まで出ています。
高校二年の水沢優樹は、不思議な地震に巻き込まれ、クラスメイト三十五人といっしょに異世界に転移してしまう。
三ヶ月後、ケガをした優樹は、クラスメイトから役立たずと言われて追放される。
絶望的な状況だったが、ふとしたきっかけで、【創造魔法】が使えるようになる。
【創造魔法】は素材さえあれば、どんなものでも作ることができる究極の魔法で、優樹は幼馴染みの由那と快適な暮らしを始める。
一方、優樹を追放したクラスメイトたちは、木の実や野草を食べて、ぎりぎりの生活をしていた。優樹が元の世界の食べ物を魔法で作れることを知り、追放を撤回しようとするが、その判断は遅かった。
優樹は自分を追放したクラスメイトたちを助ける気などなくなっていた。
あいつらは、そこらへんの草でも食ってればいいんだ。
異世界で活躍する優樹と悲惨な展開になるクラスメイトたちの物語です。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。