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令嬢のまかない
第1話『チョコレートたっぷりパウンドケーキ』②
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アーネストの兄上がお連れになられた、イツキ=エイペック殿。私が尊敬してやまないワルシュ=エイペック様の養女殿だ。
ディアナティア義姉上とは初対面なのに、凛とした表情でラウルが病になるかもしれない事態を退けた。
そのお姿に、私は……私は!!
(さすがは、ワルシュ様が認められた御息女!!)
直接的な血の繋がりはないと言えど、私が以前幾度か相見えたことのある伝説の英雄級冒険者だったワルシュ=エイペック様の養女。
その面影があるかのような凛々しい面立ち。
この不肖アイシス=ハインツベルト、大変感銘を受けました!!
「イツキさん、蜂蜜は何故赤児にはいけないの??」
「蜂蜜の中にあるものが、一歳前後の赤ちゃんには食中毒を起こすかもしれないのです。それは熱に大変強いので加熱処理をしても……なかなか消えません」
「「まあ!!」」
母上も驚かれていた。私も当然驚いたが、武道はともかく食に関しては普通の興味しか抱いていなかったので……内容がよくわからない部分もある。しかし、ハインツベルト公爵家の令嬢としては……いずれどこぞの殿方のところへ嫁ぐ身。その知識は決して他人事ではない。
「ふむ。そちらも有益な情報だ……イツキさん、これらを陛下には?」
「いえ、まだです。王妃様にもお伝えしていません」
と言うことで、父上はまたアーレンを呼び、追加の通達を送らせたのだった。
「一歳以上の赤ちゃんには、蜂蜜は問題ありません。少しずつ体のつくりが整いつつある時期なので」
それもアーレンに伝え、これについての話は終わり。
私達は改めて、イツキ殿手製のチョコレートパウンドケーキを食べることにした。
(イツキ殿の待ったで、私はまだ食べていないが……)
艶やかで美しく、まるで宝石のようにも思える黒いケーキ。パウンドケーキはあまり食べたことがないが、生クリームはアーレンなどが厨房に頼んだものを添えてある程度。
ケーキ自体は、焼き菓子に似た素朴なチョコレートケーキだが……どんな味だろうか?
まずは、フォークでそっと切り分けてから口に入れてみる。
「!!?」
濃厚な……。チョコレートがたっぷり使われている味だが、しつこさを感じない!?
甘みももちろんあるが、普段私や両親が口にするチョコレートとは違う。甘過ぎず、しかしながら濃厚な味わいが舌の上に広がるチョコレートの味だ。
そして、時折現れるアーモンドやクルミの食感。少し大雑把に混じっているが、それがイイ! 甘さで侵食された舌を休ませてくれるような……。この濃厚さは、添えられた生クリームを少しつけると和らぐ。
普段の、チョコレートたっぷりのクリームを使ったケーキももちろん好きだが、このケーキは好みだ!!
「とても美味です、イツキ殿!」
「! お口に合ったようでなによりです」
つい先程までの凛とした面持ちとは違い、柔らかな……まるで慈愛の女神のような微笑みを浮かべてくださった。
貴族ではないらしいが、アーネスト兄上が見初められた相手。しかも、父上に少し伺ったが特別な式典で陛下に認められた女性だとか。
貴族ではないのに、陛下に認められるなど……エイペック様だけだと思っていたのが、私の浅はかな考えを一新してくださった!
私はこの方を、ティア義姉上のように二番目の義姉上と思いたい!!
「あーうーあーうー」
私達がケーキを堪能していると、甥のラウルはやはり食べたいと興味を持つが……義姉上がダメだと言うと少し泣きそうになった。
「ダメですよー? ラウル君にはまだチョコレートを食べちゃったら、お腹とか歯が痛い痛いになりますよー?」
「あーう?」
「虫歯は怖いよー?」
「う?」
話せれないラウルなのに、イツキ殿の言葉を理解しているような。
(と言うか、私だってしょっちゅう泣かれるラウルが……泣かない??)
イツキ殿は兄上だけでなく、子供にも好かれやすいのか。それか、彼女の持つ女神のような安らぎが……ラウルのことを落ち着かせたのか。
「ねえ、イツキさん? お義母様やアイシスと一緒に、あとでお話しません??」
「いい考えね? ディアナティア」
「おやおや、男は邪魔かい??」
「次いつ来られるかわからないではないですか? お義父様、少しだけです」
「はっは。普段はアーネストが独り占めだしね?」
「……父上」
「まあ、女性同士の語らいもいいだろう? 愚弟よ、今回は譲りなさい?」
とは言え、ラウルだけは別だが……イツキ殿ともっと話せるのは嬉しかった!!
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