109 / 782
メイドのまかない②
第1話 待ち合わせ
しおりを挟む
私はその日、いつものメイド服とは違う格好をしていた。
(…………似合うかな?)
何故、違う格好をしているのか。
何故、離宮の前で誰かを待っているのか。
それは、もちろんひとつしか理由はない。
最近、私には恋人が出来た。
近衛騎士団第一部隊隊長でいらっしゃる、レクサス=バーミィ殿。私よりも十近く年上の方。
彼から告白され、少なからず想いを抱いていた私は……告げられた後に気を失ってしまったが無事に彼と交際を始めることになった。
しかし、私は王女殿下のメイド。レクサス殿は近衛騎士団の一員。
普段すれ違うことが少なく、私が王宮に行くことがほとんどない。逆ももちろん。
とは言え、お付き合いするようになってからは……私が城内で世話している猫の世話の時間を見計らって彼がやって来る。
猫は野良ではないが、飼い主である宮仕えの人間が自由気ままに育てているので、城のあちこちにいるしあちこちから可愛がられている。私もそのひとりで、時間が空いたらミルクを上げているだけだけど。レクサス殿はそんな時にやってきては、私と一緒に猫をあやしては話をしてくださる。
そして、数日前に。同じように過ごしていたら彼に告げられたのだ。
『デート……せぇへん?』
さりげなく、けど少し力強い言葉に……私は抱っこしていた猫を思わず強く抱きしめてしまった。
それぐらい意外で、けど嬉しくて……表情に出ているかわからなかったが、行きたいと返事をすればレクサス殿からは思いっきり頭を撫でられた。
恋人になる時に、嬢ちゃん呼びは無くなっても……私と彼の歳の差はそこそこ大きい。だから、自然と子供扱いが抜けないのも仕方がないかもしれない。王女殿下とラインシード様程ではないが。
なので、日取りを決めてから先輩のメイドに聞くと『じゃあ、おめかししなくちゃ!!』……と、今日は朝から他の先輩方も一緒になって、もみくちゃにされる勢いで着飾られたのである。
そして今、いつも猫をあやす場所でレクサス殿を待っていた。日当たりはいいが、人通りが少ないテラスのせいで猫以外私しかいない。
いつ来るだろうか……とそわそわしていると、レクサス殿の声が聞こえてきた。
「おはようさん。待たせて悪いなあ?」
相変わらず、少しだらけた雰囲気。
しかし、服装はいつもの少し着崩した騎士服ではない。ぴっちりと着込んで……何故か防御も身につけていた。街に出かけるのではないだろうか??
今日の行き先はレクサス殿に任せろと言われたので、私はその場所を知らない。
「おはようございます。……そこまで待っていません」
「さよか? 今日はちぃっと遠出するからな?」
「街……ではなく?」
「街やと色々面倒なんや。ほら、自分元冒険者やろ?? 知り合いとか多過ぎて質問攻めに合うのが嫌なんや。そこに可愛いサフィア晒すのが……いらん虫とか引き寄せそうでな?」
「まあ?」
たしかに、言われてみればその通りかもしれないが。
私に気遣ってくれる優しさが……嬉しい。
私が思わず、ぷっと笑ってしまうとレクサス殿も笑ってくださった。
「ほな、行こか? 弁当はイツキはんに頼んで色々作ってもらったんや」
「まあ」
それはすごく楽しみだ。
ひとまず、私達は馬を待たせている場所に行くために……並ぶだけでなく彼の空いている腕に抱きついて歩く事になった。
(…………似合うかな?)
何故、違う格好をしているのか。
何故、離宮の前で誰かを待っているのか。
それは、もちろんひとつしか理由はない。
最近、私には恋人が出来た。
近衛騎士団第一部隊隊長でいらっしゃる、レクサス=バーミィ殿。私よりも十近く年上の方。
彼から告白され、少なからず想いを抱いていた私は……告げられた後に気を失ってしまったが無事に彼と交際を始めることになった。
しかし、私は王女殿下のメイド。レクサス殿は近衛騎士団の一員。
普段すれ違うことが少なく、私が王宮に行くことがほとんどない。逆ももちろん。
とは言え、お付き合いするようになってからは……私が城内で世話している猫の世話の時間を見計らって彼がやって来る。
猫は野良ではないが、飼い主である宮仕えの人間が自由気ままに育てているので、城のあちこちにいるしあちこちから可愛がられている。私もそのひとりで、時間が空いたらミルクを上げているだけだけど。レクサス殿はそんな時にやってきては、私と一緒に猫をあやしては話をしてくださる。
そして、数日前に。同じように過ごしていたら彼に告げられたのだ。
『デート……せぇへん?』
さりげなく、けど少し力強い言葉に……私は抱っこしていた猫を思わず強く抱きしめてしまった。
それぐらい意外で、けど嬉しくて……表情に出ているかわからなかったが、行きたいと返事をすればレクサス殿からは思いっきり頭を撫でられた。
恋人になる時に、嬢ちゃん呼びは無くなっても……私と彼の歳の差はそこそこ大きい。だから、自然と子供扱いが抜けないのも仕方がないかもしれない。王女殿下とラインシード様程ではないが。
なので、日取りを決めてから先輩のメイドに聞くと『じゃあ、おめかししなくちゃ!!』……と、今日は朝から他の先輩方も一緒になって、もみくちゃにされる勢いで着飾られたのである。
そして今、いつも猫をあやす場所でレクサス殿を待っていた。日当たりはいいが、人通りが少ないテラスのせいで猫以外私しかいない。
いつ来るだろうか……とそわそわしていると、レクサス殿の声が聞こえてきた。
「おはようさん。待たせて悪いなあ?」
相変わらず、少しだらけた雰囲気。
しかし、服装はいつもの少し着崩した騎士服ではない。ぴっちりと着込んで……何故か防御も身につけていた。街に出かけるのではないだろうか??
今日の行き先はレクサス殿に任せろと言われたので、私はその場所を知らない。
「おはようございます。……そこまで待っていません」
「さよか? 今日はちぃっと遠出するからな?」
「街……ではなく?」
「街やと色々面倒なんや。ほら、自分元冒険者やろ?? 知り合いとか多過ぎて質問攻めに合うのが嫌なんや。そこに可愛いサフィア晒すのが……いらん虫とか引き寄せそうでな?」
「まあ?」
たしかに、言われてみればその通りかもしれないが。
私に気遣ってくれる優しさが……嬉しい。
私が思わず、ぷっと笑ってしまうとレクサス殿も笑ってくださった。
「ほな、行こか? 弁当はイツキはんに頼んで色々作ってもらったんや」
「まあ」
それはすごく楽しみだ。
ひとまず、私達は馬を待たせている場所に行くために……並ぶだけでなく彼の空いている腕に抱きついて歩く事になった。
45
お気に入りに追加
5,508
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜
櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。
和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。
命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。
さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。
腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。
料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!!
おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。
アラフォー料理人が始める異世界スローライフ
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。
わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。
それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。
男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。
いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。