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ギルドマスターのまかない②
第3話『失敗オヤコドン』②
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私がメソメソと泣いていると、ハーツは中腰になっていた姿勢から立ち上がり、かちゃかちゃと何かを動かし出した。
なんだろうと顔を上げると、ハーツが鍋の中身をスプーンですくい、息を吹きかけて食べようとしていたのだ!?
「ハーツ!? それは!!」
だが、私の声は届かず……ハーツはオヤコドンを口に入れてしまう。もごもごと口が動くが、吐き出すことはなかった。
「……め」
「え?」
「ちぃっと濃いめだが、不味くねぇぞ? 俺ぁ、美味いと思うが」
「……うそ」
「マジ、マジ」
食ってみろと言われたので、彼が使ったスプーンで同じようにすくい上げて息を吹きかけてから……口に入れる。
卵の部分は固いオムレツのようだが、たしかに味は濃いめでも悪くはない。むしろ、美味しい方だった。
「……食べれる」
「だろ?」
「けど……イツキさんのオヤコドンの方がもっともっと美味しかった」
「まあ? あの子はあの歳で特級料理人だからなあ?」
敵うわけがないのは当然。
彼女は、世界でも数少ない職業……特級料理人の称号を持つ凄腕の女性だ。到底彼女の完成品に及ぶだなんて無理だが、少しでもマシなものは作りたかった。
そして、自分がいざ料理すると肝心なところで出来ないのが、これでわかった。
「これは……これで食べるとしても。きちんとしたオヤコドンを作れるようになりたい」
「どこの部分でつまずいたんだ?」
「お肉と玉ねぎはいいの。……最後の卵の部分」
「レシピの複製は?」
「これ」
手に握ったままのレシピを渡すと……ハーツはしばらく読み込むように見てから、私にまたレシピを返してきた。
何をするかと思えば、自分でもオヤコドンを作るらしく……材料を集めてからささっと作っていく。そう言えば、彼は料理人でないが手先は器用だったことを思い出した。
「たしかに、あの子のレシピは画期的だ。んでもって、見たことがねえもんばっかだが作ると美味い。それを証明出来るようになるにゃ……ちぃっと手間がかかるな」
いや、ハーツ?
私はギルマスとしてと言うよりも、単純にお腹が空いたからオヤコドンを作ってただけであって。
くきゅぅるるるるうう
ツッコミを入れようとしたら、大き過ぎるくらいのお腹の音が室内に響いていった。これには、ハーツの手も止まった。
「……うぅ」
「お前さん、まさか……腹減っただけでオヤコドン作ろうとしてたのか?」
「だって! あの味思い出すと作れるかなって!!」
到底及ばないとわかっても作れるかもしれないと思っていたわよ!!
プンスコって感じに子供みたいに頬を膨らませると、ハーツは思わず吹き出したようだ。
「ぷ!? はははは!? なんだ、滅多に料理しないお前さんが珍しいと思ったが」
「……どーせ、まともに作れないですよーだ!」
「まあ、落ち着け。卵の加減だけだろ? 見てろって」
ささっと、卵を入れる前を覚えたレシピだけでハーツは作っていく。くつくつ煮えていく、美味しそうな具材にハーツは溶いた卵の液をゆっくりと入れていった。
ただし、液は半分だけ。
「?」
「あの子の作っていた時、俺はよく見ておいたんだ。全部を一気に入れずに半分だけ。ゆるく火が通ったら、残りを入れて」
お米を器に入れてくれと言われたから、それだけは出来たので……器に入れてからハーツに渡してあげた。
そして、火を止めたハーツは鍋の中身をゆっくりと器に入れていく。
出来上がったオヤコドンは、ほとんどイツキさんの作ったオヤコドンと同じだった!?
「美味しそう!!」
「多分大丈夫なはずだ。食おうぜ?」
「うん!」
比較するためにも、まだ残ってた私の失敗作も盛り付けたけど……。
なんだろうと顔を上げると、ハーツが鍋の中身をスプーンですくい、息を吹きかけて食べようとしていたのだ!?
「ハーツ!? それは!!」
だが、私の声は届かず……ハーツはオヤコドンを口に入れてしまう。もごもごと口が動くが、吐き出すことはなかった。
「……め」
「え?」
「ちぃっと濃いめだが、不味くねぇぞ? 俺ぁ、美味いと思うが」
「……うそ」
「マジ、マジ」
食ってみろと言われたので、彼が使ったスプーンで同じようにすくい上げて息を吹きかけてから……口に入れる。
卵の部分は固いオムレツのようだが、たしかに味は濃いめでも悪くはない。むしろ、美味しい方だった。
「……食べれる」
「だろ?」
「けど……イツキさんのオヤコドンの方がもっともっと美味しかった」
「まあ? あの子はあの歳で特級料理人だからなあ?」
敵うわけがないのは当然。
彼女は、世界でも数少ない職業……特級料理人の称号を持つ凄腕の女性だ。到底彼女の完成品に及ぶだなんて無理だが、少しでもマシなものは作りたかった。
そして、自分がいざ料理すると肝心なところで出来ないのが、これでわかった。
「これは……これで食べるとしても。きちんとしたオヤコドンを作れるようになりたい」
「どこの部分でつまずいたんだ?」
「お肉と玉ねぎはいいの。……最後の卵の部分」
「レシピの複製は?」
「これ」
手に握ったままのレシピを渡すと……ハーツはしばらく読み込むように見てから、私にまたレシピを返してきた。
何をするかと思えば、自分でもオヤコドンを作るらしく……材料を集めてからささっと作っていく。そう言えば、彼は料理人でないが手先は器用だったことを思い出した。
「たしかに、あの子のレシピは画期的だ。んでもって、見たことがねえもんばっかだが作ると美味い。それを証明出来るようになるにゃ……ちぃっと手間がかかるな」
いや、ハーツ?
私はギルマスとしてと言うよりも、単純にお腹が空いたからオヤコドンを作ってただけであって。
くきゅぅるるるるうう
ツッコミを入れようとしたら、大き過ぎるくらいのお腹の音が室内に響いていった。これには、ハーツの手も止まった。
「……うぅ」
「お前さん、まさか……腹減っただけでオヤコドン作ろうとしてたのか?」
「だって! あの味思い出すと作れるかなって!!」
到底及ばないとわかっても作れるかもしれないと思っていたわよ!!
プンスコって感じに子供みたいに頬を膨らませると、ハーツは思わず吹き出したようだ。
「ぷ!? はははは!? なんだ、滅多に料理しないお前さんが珍しいと思ったが」
「……どーせ、まともに作れないですよーだ!」
「まあ、落ち着け。卵の加減だけだろ? 見てろって」
ささっと、卵を入れる前を覚えたレシピだけでハーツは作っていく。くつくつ煮えていく、美味しそうな具材にハーツは溶いた卵の液をゆっくりと入れていった。
ただし、液は半分だけ。
「?」
「あの子の作っていた時、俺はよく見ておいたんだ。全部を一気に入れずに半分だけ。ゆるく火が通ったら、残りを入れて」
お米を器に入れてくれと言われたから、それだけは出来たので……器に入れてからハーツに渡してあげた。
そして、火を止めたハーツは鍋の中身をゆっくりと器に入れていく。
出来上がったオヤコドンは、ほとんどイツキさんの作ったオヤコドンと同じだった!?
「美味しそう!!」
「多分大丈夫なはずだ。食おうぜ?」
「うん!」
比較するためにも、まだ残ってた私の失敗作も盛り付けたけど……。
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