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王女のまかない⑤
第4話『チョコレートショートケーキ』③
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少し遅めのお茶会。
けど、通達を頼めば……ネルヴィスは来てくれた。
私の部屋で、サフィア達には控え室にいないようにさせて。
ただし、イツキだけはそちらに待機させているわ。それぞれの事情を知っている人間として……私のワガママではあるけれど、少しでも支えになってくれる人がいて欲しかった。
ネルは完全な正装ではないけど、近衛騎士団の隊長らしい出立ちで……私達王族に次ぐ血筋が体現されている輝かしい金髪は今日も美しい。顔も眩しいくらいに美しいわ……。
(この人が本当に私を……?)
今更に思うけど、まだ信じられじないわ。告白がされたけど、私はあの時逃げてしまった。記憶が戻る前なら当然の反応。
大人じゃなくったって、信じられるわけがない。お城でトップクラスのスターが王女とは言え、子供の事を女として見ているだなんて。
少し……いや、だいぶ異常だわ。この人の頭のネジが一本どっかいったんじゃないかと思う。でも、今のネルは私が座るように言うと、いつも通りの微笑みを浮かべてくれていた。その美しさに今までとは違って、ドキドキしないわけがない。
「お茶会へのお誘い、ありがとうございます。殿下」
いつも通りの微笑み。
いつも通りの耳通りの良い、イケメンに許された声音。
ほんと、子供の今であっても絆されてしまいそうだわ。けど、ただ絆されていけないわと私は先にサフィアに淹れておいてもらった紅茶を口にする。
今日作ったチョコレートのショートケーキには合いそうな渋みだわ。まだこの年齢だとコーヒーが口に合わないもの。
「今日はお詫びも兼ねて呼んだの」
「詫び? ですか?」
「……この前の夜のことよ」
「……なるほど」
少し寂しそうな顔になったけど、そんな顔をさせたくない。だから、きちんと言うことにしたわ。
「迷惑だなんて思ってないわ、ネル!」
「……え?」
「びっくり……はしたわ。けど、嫌とは思っていない」
「……え」
あら、ネルヴィス?
あなた、そんな間抜け面出来たのね!?
ちょっとおかしいけど、いつもの完璧甘いマスクよりも断然人間らしく見えるわ!!
「そう思っているからこそ、お詫びのお菓子を用意したの。……今テーブルにあるのはイツキと一緒に作ったケーキよ」
「!? これを……殿下が、ですか!?」
「チョコレートを使ったショートケーキですって」
「その……口にしていいんでしょうか?」
「もちろんよ」
そのために作ったんだから、食べてもらわなきゃ困るわ!!
ケーキはイツキに頼んで1ピースずつお皿に載せてあるので、私とかが切り分ける必要はない。断面も心配してたけど、美しいチョコレートクリームとイチゴ、スポンジの層になっていた。
スポンジも、表面をきれいにした時の端切れを味見したから、味は問題ない。むしろ、イツキの指導のお陰で子供でもよく出来たと思ったわ。前世の家事スキルはペーぺーだったけど……イツキはやっぱり凄い。
教え方もとっても上手だもの。たしか、生産ギルドに登録して、レシピを売ったらちょっとどころではない小金持ちになったって言っていた。
「……口にするのがもったいないくらいに美しいですね?」
「そ、そう?」
「しかし、せっかくの殿下お手製ですしね? 頂かせていただきます」
と言って、綺麗な作法でケーキをなんのためらいもなく口に入れてくれた。
もぐっと口が動くと、綺麗過ぎる白い肌がピンクに染まっていく。
「ど、どうかしら??」
味見はほぼした。
けどそれは、日本人感覚としてだ。
そうじゃない、イツキの料理をある意味食べ慣れているネルヴィスの口に合うかどうか。
ドキドキしながら待っていると、ネルはフォークをお皿の上に置いて……最上級の微笑みを私に向けてきた。
「このようなケーキ、初めてです! とても美味しいですよ!!」
「イツキと一緒に作ったからだもの」
「ですが、殿下はほとんど調理をなされたことはないはずです。それを踏まえても、美味しいですよ」
「ありがとう……」
喜んでもらえて良かったわ。
けど、今日の最難関はもうひとつある。
私の気持ちと、私の秘密を打ち明けることだ。
ネルヴィスが紅茶を飲み終わってから、私は両手の拳を膝の上に置いた。
その表情がすごかったのか、ネルには不思議そうな顔を向けられた。
「? 殿下?」
「あのね、ネル!」
「はい?」
「ネルの気持ち、すっごく嬉しかったの! けど、私には……あの時あなたが告げてくれた後に……大変な事に気づいたの!!」
「!? 殿下のお身体が、でしょうか?」
「いいえ。私……多分イツキと同じ世界から来た転生者なのよ!!」
「……………………え」
理解してもらえたかどうかはわからないが、ネルヴィスはまた間抜け面になってしまった。
けど、言わなくちゃ、と私は言葉を続けた。
「前世の記憶を思い出したから……ただの子供じゃないの。記憶の年齢を足すとネルよりもおばさんだし、レディっぽくないわ! それでも、私に寄り添ってくれるの!?」
わがまま。
物凄いわがままだ。
けど、言わずにはいられない。知った上で、私に求婚してほしい。
じっとネルヴィスを見ながら待っていると……彼は席から立って、私の前にこの前のようにひざまずいてきた。
「もちろんです。私の本心は変わりません。むしろ」
「むしろ?」
「そのような愛らしい一面を知れて、感無量ですよ?」
と言って、私に左手を取り、この前のように手の甲に口付けられた。
(…………ああ!)
まだ困難な事は多いだろうけど。
ずっと一緒にいてくれた男の人と想いを交わす事が出来るだなんて!!
嬉し過ぎて、私は淑女らしくないくらいの勢いで彼に抱きつき、彼は力強く抱きしめてくれた。
けど、通達を頼めば……ネルヴィスは来てくれた。
私の部屋で、サフィア達には控え室にいないようにさせて。
ただし、イツキだけはそちらに待機させているわ。それぞれの事情を知っている人間として……私のワガママではあるけれど、少しでも支えになってくれる人がいて欲しかった。
ネルは完全な正装ではないけど、近衛騎士団の隊長らしい出立ちで……私達王族に次ぐ血筋が体現されている輝かしい金髪は今日も美しい。顔も眩しいくらいに美しいわ……。
(この人が本当に私を……?)
今更に思うけど、まだ信じられじないわ。告白がされたけど、私はあの時逃げてしまった。記憶が戻る前なら当然の反応。
大人じゃなくったって、信じられるわけがない。お城でトップクラスのスターが王女とは言え、子供の事を女として見ているだなんて。
少し……いや、だいぶ異常だわ。この人の頭のネジが一本どっかいったんじゃないかと思う。でも、今のネルは私が座るように言うと、いつも通りの微笑みを浮かべてくれていた。その美しさに今までとは違って、ドキドキしないわけがない。
「お茶会へのお誘い、ありがとうございます。殿下」
いつも通りの微笑み。
いつも通りの耳通りの良い、イケメンに許された声音。
ほんと、子供の今であっても絆されてしまいそうだわ。けど、ただ絆されていけないわと私は先にサフィアに淹れておいてもらった紅茶を口にする。
今日作ったチョコレートのショートケーキには合いそうな渋みだわ。まだこの年齢だとコーヒーが口に合わないもの。
「今日はお詫びも兼ねて呼んだの」
「詫び? ですか?」
「……この前の夜のことよ」
「……なるほど」
少し寂しそうな顔になったけど、そんな顔をさせたくない。だから、きちんと言うことにしたわ。
「迷惑だなんて思ってないわ、ネル!」
「……え?」
「びっくり……はしたわ。けど、嫌とは思っていない」
「……え」
あら、ネルヴィス?
あなた、そんな間抜け面出来たのね!?
ちょっとおかしいけど、いつもの完璧甘いマスクよりも断然人間らしく見えるわ!!
「そう思っているからこそ、お詫びのお菓子を用意したの。……今テーブルにあるのはイツキと一緒に作ったケーキよ」
「!? これを……殿下が、ですか!?」
「チョコレートを使ったショートケーキですって」
「その……口にしていいんでしょうか?」
「もちろんよ」
そのために作ったんだから、食べてもらわなきゃ困るわ!!
ケーキはイツキに頼んで1ピースずつお皿に載せてあるので、私とかが切り分ける必要はない。断面も心配してたけど、美しいチョコレートクリームとイチゴ、スポンジの層になっていた。
スポンジも、表面をきれいにした時の端切れを味見したから、味は問題ない。むしろ、イツキの指導のお陰で子供でもよく出来たと思ったわ。前世の家事スキルはペーぺーだったけど……イツキはやっぱり凄い。
教え方もとっても上手だもの。たしか、生産ギルドに登録して、レシピを売ったらちょっとどころではない小金持ちになったって言っていた。
「……口にするのがもったいないくらいに美しいですね?」
「そ、そう?」
「しかし、せっかくの殿下お手製ですしね? 頂かせていただきます」
と言って、綺麗な作法でケーキをなんのためらいもなく口に入れてくれた。
もぐっと口が動くと、綺麗過ぎる白い肌がピンクに染まっていく。
「ど、どうかしら??」
味見はほぼした。
けどそれは、日本人感覚としてだ。
そうじゃない、イツキの料理をある意味食べ慣れているネルヴィスの口に合うかどうか。
ドキドキしながら待っていると、ネルはフォークをお皿の上に置いて……最上級の微笑みを私に向けてきた。
「このようなケーキ、初めてです! とても美味しいですよ!!」
「イツキと一緒に作ったからだもの」
「ですが、殿下はほとんど調理をなされたことはないはずです。それを踏まえても、美味しいですよ」
「ありがとう……」
喜んでもらえて良かったわ。
けど、今日の最難関はもうひとつある。
私の気持ちと、私の秘密を打ち明けることだ。
ネルヴィスが紅茶を飲み終わってから、私は両手の拳を膝の上に置いた。
その表情がすごかったのか、ネルには不思議そうな顔を向けられた。
「? 殿下?」
「あのね、ネル!」
「はい?」
「ネルの気持ち、すっごく嬉しかったの! けど、私には……あの時あなたが告げてくれた後に……大変な事に気づいたの!!」
「!? 殿下のお身体が、でしょうか?」
「いいえ。私……多分イツキと同じ世界から来た転生者なのよ!!」
「……………………え」
理解してもらえたかどうかはわからないが、ネルヴィスはまた間抜け面になってしまった。
けど、言わなくちゃ、と私は言葉を続けた。
「前世の記憶を思い出したから……ただの子供じゃないの。記憶の年齢を足すとネルよりもおばさんだし、レディっぽくないわ! それでも、私に寄り添ってくれるの!?」
わがまま。
物凄いわがままだ。
けど、言わずにはいられない。知った上で、私に求婚してほしい。
じっとネルヴィスを見ながら待っていると……彼は席から立って、私の前にこの前のようにひざまずいてきた。
「もちろんです。私の本心は変わりません。むしろ」
「むしろ?」
「そのような愛らしい一面を知れて、感無量ですよ?」
と言って、私に左手を取り、この前のように手の甲に口付けられた。
(…………ああ!)
まだ困難な事は多いだろうけど。
ずっと一緒にいてくれた男の人と想いを交わす事が出来るだなんて!!
嬉し過ぎて、私は淑女らしくないくらいの勢いで彼に抱きつき、彼は力強く抱きしめてくれた。
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