37 / 784
王妃のまかない③
第1話 王妃とイツキ
しおりを挟む
ジェラルドが生まれて、そろそろ二週間。
私はイツキを呼びたいと思い、厨房に遣いを出して彼女を自室に呼び寄せた。女性とわかったのは偶然だけど……ジェラルドの出産の時に、手助けしてくれたのは他でもないイツキ。
だから、お礼を言いたいと思ったの。あの時のレモンモチと言うのは本当に美味しかったし、出来ればその……また作って欲しかった。
(だって、先輩の料理もだけど……イツキのはとても口に合うんだもの)
それと、確かめたいことがもうひとつあるのだけれど。女性用の服を用意しようと思ったが、事情を知るリュシア付きのサフィアがイツキの服を預かっていると知り……なら、とサフィアに案内も含めて頼むことにした。
イツキが来たのは、ちょうどジェラルドに乳を上げた後くらいだったわ。
「……お招きありがとうございます。王妃様」
完全な正装ではないが、彼女は貴族ではないのでそこは気にしない。だが、女性らしい服装と化粧をすると……男性と間違えてしまっていたことが恥ずかしく思えるわ。けれど、それはワルシュ先輩の采配らしいが。
「いらっしゃい、イツキ。いつも通りでいいのよ?」
「いいんでしょうか……??」
「ふふ。私達だけだもの」
「王妃殿下。イツキ殿から差し入れをいただきました」
「まあ、何かしら??」
急に呼んだのに、手土産をもらえるだなんて……ちょっと、いいえ。だいぶ期待してしまっているわ。ジェラルドを寝台に寝かせてから、私は自分の足でサフィアの方へと向かう。
「ちょっと冷たい、甘いものです」
冬は明けたが、少し冷たいものは嬉しい!
今は春とは言え、まだまだ風とかは冷たい。ジェラルドにも風邪を引かないようにあったかくさせているからだ。
「ありがとう。イツキ、これは数は多いのかしら?」
「? はい。そこそこご用意しました」
「なら。サフィア、あなたとリュシアの分を持っていきなさい?」
「! よろしい……のでしょうか?」
「イツキの秘密を共有しているもの? それに、あなたはなかなかイツキの料理は食べれないだろうから」
「……わかりました。頂戴致します」
なので、箱の蓋を開けてみると……うっすらとピンク色を何かが白いものに包まれたのが敷き詰められていた。
私がひとつ持ち上げると、少し重く……だが手触りがまるで羽根のように心地良かった。
「そちらはピーチを使ったお餅です」
「まあ、これもモチなの??」
「…………失礼ながら、かなり大きいですね?」
「勢いよく食べて喉を詰まらせないようにしてください」
「……わかりました」
サフィアが私達のお茶と、モチを皿に載せたりしてから……私の指示通りにリュシアと自分の分のモチを小箱に入れて持って行った。
別にメイドはいるが、今日はイツキと話がしたいので下がらせている。
「イツキ、王子はジェラルドと言う名前になったの」
うとうとしかけていた息子をゆっくりと抱き上げ、イツキの方に近づいた。イツキは子供が嫌いじゃないのか私がジェラルドを見せるとにっこりと笑ってくれたわ。
「可愛らしい赤ちゃんですね?」
「ええ。あなたも手伝ってくれたお陰よ?」
「私は……リュシアーノ様と一緒にレモン餅を作っただけですし」
「それでも、よ。あれは本当に美味しかったわ。…………抱っこしてみる??」
「…………やってみます」
抱っこするのは慣れていないようだが、私が教えてあげて抱えた時の表情は……まるで女神のような慈愛の深い微笑みを浮かべてくれた。
私はイツキを呼びたいと思い、厨房に遣いを出して彼女を自室に呼び寄せた。女性とわかったのは偶然だけど……ジェラルドの出産の時に、手助けしてくれたのは他でもないイツキ。
だから、お礼を言いたいと思ったの。あの時のレモンモチと言うのは本当に美味しかったし、出来ればその……また作って欲しかった。
(だって、先輩の料理もだけど……イツキのはとても口に合うんだもの)
それと、確かめたいことがもうひとつあるのだけれど。女性用の服を用意しようと思ったが、事情を知るリュシア付きのサフィアがイツキの服を預かっていると知り……なら、とサフィアに案内も含めて頼むことにした。
イツキが来たのは、ちょうどジェラルドに乳を上げた後くらいだったわ。
「……お招きありがとうございます。王妃様」
完全な正装ではないが、彼女は貴族ではないのでそこは気にしない。だが、女性らしい服装と化粧をすると……男性と間違えてしまっていたことが恥ずかしく思えるわ。けれど、それはワルシュ先輩の采配らしいが。
「いらっしゃい、イツキ。いつも通りでいいのよ?」
「いいんでしょうか……??」
「ふふ。私達だけだもの」
「王妃殿下。イツキ殿から差し入れをいただきました」
「まあ、何かしら??」
急に呼んだのに、手土産をもらえるだなんて……ちょっと、いいえ。だいぶ期待してしまっているわ。ジェラルドを寝台に寝かせてから、私は自分の足でサフィアの方へと向かう。
「ちょっと冷たい、甘いものです」
冬は明けたが、少し冷たいものは嬉しい!
今は春とは言え、まだまだ風とかは冷たい。ジェラルドにも風邪を引かないようにあったかくさせているからだ。
「ありがとう。イツキ、これは数は多いのかしら?」
「? はい。そこそこご用意しました」
「なら。サフィア、あなたとリュシアの分を持っていきなさい?」
「! よろしい……のでしょうか?」
「イツキの秘密を共有しているもの? それに、あなたはなかなかイツキの料理は食べれないだろうから」
「……わかりました。頂戴致します」
なので、箱の蓋を開けてみると……うっすらとピンク色を何かが白いものに包まれたのが敷き詰められていた。
私がひとつ持ち上げると、少し重く……だが手触りがまるで羽根のように心地良かった。
「そちらはピーチを使ったお餅です」
「まあ、これもモチなの??」
「…………失礼ながら、かなり大きいですね?」
「勢いよく食べて喉を詰まらせないようにしてください」
「……わかりました」
サフィアが私達のお茶と、モチを皿に載せたりしてから……私の指示通りにリュシアと自分の分のモチを小箱に入れて持って行った。
別にメイドはいるが、今日はイツキと話がしたいので下がらせている。
「イツキ、王子はジェラルドと言う名前になったの」
うとうとしかけていた息子をゆっくりと抱き上げ、イツキの方に近づいた。イツキは子供が嫌いじゃないのか私がジェラルドを見せるとにっこりと笑ってくれたわ。
「可愛らしい赤ちゃんですね?」
「ええ。あなたも手伝ってくれたお陰よ?」
「私は……リュシアーノ様と一緒にレモン餅を作っただけですし」
「それでも、よ。あれは本当に美味しかったわ。…………抱っこしてみる??」
「…………やってみます」
抱っこするのは慣れていないようだが、私が教えてあげて抱えた時の表情は……まるで女神のような慈愛の深い微笑みを浮かべてくれた。
47
お気に入りに追加
5,495
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。