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如何に婚姻まで(番外編)
第43話 未知の食事を生み出すのは
しおりを挟む 紅狼はふと、思うことが出来た。恋花と再会してから、それが当然過ぎて気が付かないでいたのだ。彼女の九十九である梁と休息を取ることとなったために、ある意味好機だと尋ねてみることにした。
東屋に到着してから切り出してみる。何故、異能を継承したからとは言えど。玉蘭の本体は地下へ封印されたと言うのに……十年もほとんど独りで過ごしてきた恋花が、あれほどの調理技術を身につけたかを。
修行したくとも、宮廷調理人だった玉蘭は身動き出来ていない。梁が変幻していたにしても、その技術までは真似出来ないはず。それなのに、紅狼が目にする限りでも祖母以上の技術の持ち主にまで成長していた。
才能を開花するには、あれだけの技術を『見様見真似』だけでは会得するのは困難なはず。彼女が説明してくれた、襲撃事件後の『先の世の己』が教授したにしても不可思議な部分が多過ぎるのだ。
そちらの彼女と夢路を共有できるようになったのは、ごく最近。それ以前は一切接触がなかったとされている。他にも疑問は多いが、どのようにして設備なども含めて可能にしてきたかが気がかりだった。これをたしかにしておかねば、宮中に戻ったあとも……また、別の意味で狙われる可能性が出てきてしまう。
恋花が黄家の直系抜きにしても、唐亜の救世主の方がまだ知名度は高い。そちらからの妬みや画策を対策するのは、黄家の後回しにするのも……そろそろいいだろう。斗亜は今、そちらにかかりきりにはなれない状況だ。事実上、手薄の紅狼がそれを調べておけば。あとで情報を共有したときに、恋花とも話合えれば被害が少なくて済むはず。
完全に取り除くのは、襲撃事件などを顧みれば困難なのは理解していた。対策をしておくしか、まずは出来ないのだ。
「梁、正直に答えてもらえないだろうか?」
『何をだ?』
「恋花もだが、お前についてもだ。この十年、言い方は悪いが恵まれた生活をしてこなかったお前たちが。何故、玉蘭殿がいなくとも『普通』を維持出来ていたのだ?」
調理の技術もだが、そこについても気になっていた。資産があるにしても、常識を伝える大人が居なくては子どもは生活するのが困難なはず。当時、恋花はまだ七つ程度の子どもだった。
九十九が祖母に変幻されてたにしても、事実上『無し』の生活を虐げられていた状況。にもかかわらず、恋花はすれた性格にもならずに成長している。自信なさげにはなったものの、それも徐々に取り戻してはいるが。
過酷な環境には変わりなかったはずなのに。道を一切逸れていない。なにか手を加えたにしても、封印を自ら施した玉蘭が他に何をしたのだろうかと。
その問いをしたあとに、梁は少し目を閉じてから話し出してくれた。
『そうだな。紅狼になら話してよいかもしれない』
「……口止めされていたのか?」
『是。少し、呪も関わっている。危険ではないが、一種の呪詛返しだ。恋花の両親も弱いが術を使うことが出来たのだ。魂魄などは冥府へ既に旅立っているが、死に際に母親主体で編み出していたらしい。玉蘭の息子である父親も、それに手を貸していた。事切れた原因は、それだ』
「……おふたりが」
記憶は朧気だが、義父となるはずだった彼は玉蘭の息子にしては穏やかな性格をしていたと思う。術の技術については目にしていなかったが、やはり母の出自の関係で無縁ではなかったようだ。死の間際でも、娘のために嫁と手を尽くすのは当然だ。玉蘭で補えない部分を、ふたりがかりで施せば……幾年かは保つだろう。その間に恋花も成長していくから、ある程度基礎が身につけば自然と呪は解けていく。
その仕組みを構築するくらい、ふたりであれば容易いはずだ。遠隔でも玉蘭の魂魄が見守っている環境であれば問題はない。なら、大きな問題はないのだなと素直に安心が出来た。大きな息を吐き、胸の奥のつっかえが取り除けたようだ。
『告げぬのは悪かった。てっきり、玉蘭から聞いていると思っていたが……あれは、時折はぐらかすからな?』
「そうだな。玉蘭殿であれば、梁から聞けとか色々面倒くさがるだろう」
導きの答えは、己で見つけ出せ。そんな荒っぽい指導をするのは、昔も今も変わらないようだ。
とにかく、義両親になるはずだったふたりの墓前にて、恋花にこの話を打ち明けることに決めた。今はまだ、城の中が荒れ狂っている。黄家の本家側の事も。だから、この保養地にいる間はのびのびと過ごさせてやりたい。紅狼もこれで、少しはのんびり出来そうだ。
あと、夜の楽しみがあるため。梁とその話になれば、次はどう活かすかなどと『漢』の話題へと切り替えていった。
東屋に到着してから切り出してみる。何故、異能を継承したからとは言えど。玉蘭の本体は地下へ封印されたと言うのに……十年もほとんど独りで過ごしてきた恋花が、あれほどの調理技術を身につけたかを。
修行したくとも、宮廷調理人だった玉蘭は身動き出来ていない。梁が変幻していたにしても、その技術までは真似出来ないはず。それなのに、紅狼が目にする限りでも祖母以上の技術の持ち主にまで成長していた。
才能を開花するには、あれだけの技術を『見様見真似』だけでは会得するのは困難なはず。彼女が説明してくれた、襲撃事件後の『先の世の己』が教授したにしても不可思議な部分が多過ぎるのだ。
そちらの彼女と夢路を共有できるようになったのは、ごく最近。それ以前は一切接触がなかったとされている。他にも疑問は多いが、どのようにして設備なども含めて可能にしてきたかが気がかりだった。これをたしかにしておかねば、宮中に戻ったあとも……また、別の意味で狙われる可能性が出てきてしまう。
恋花が黄家の直系抜きにしても、唐亜の救世主の方がまだ知名度は高い。そちらからの妬みや画策を対策するのは、黄家の後回しにするのも……そろそろいいだろう。斗亜は今、そちらにかかりきりにはなれない状況だ。事実上、手薄の紅狼がそれを調べておけば。あとで情報を共有したときに、恋花とも話合えれば被害が少なくて済むはず。
完全に取り除くのは、襲撃事件などを顧みれば困難なのは理解していた。対策をしておくしか、まずは出来ないのだ。
「梁、正直に答えてもらえないだろうか?」
『何をだ?』
「恋花もだが、お前についてもだ。この十年、言い方は悪いが恵まれた生活をしてこなかったお前たちが。何故、玉蘭殿がいなくとも『普通』を維持出来ていたのだ?」
調理の技術もだが、そこについても気になっていた。資産があるにしても、常識を伝える大人が居なくては子どもは生活するのが困難なはず。当時、恋花はまだ七つ程度の子どもだった。
九十九が祖母に変幻されてたにしても、事実上『無し』の生活を虐げられていた状況。にもかかわらず、恋花はすれた性格にもならずに成長している。自信なさげにはなったものの、それも徐々に取り戻してはいるが。
過酷な環境には変わりなかったはずなのに。道を一切逸れていない。なにか手を加えたにしても、封印を自ら施した玉蘭が他に何をしたのだろうかと。
その問いをしたあとに、梁は少し目を閉じてから話し出してくれた。
『そうだな。紅狼になら話してよいかもしれない』
「……口止めされていたのか?」
『是。少し、呪も関わっている。危険ではないが、一種の呪詛返しだ。恋花の両親も弱いが術を使うことが出来たのだ。魂魄などは冥府へ既に旅立っているが、死に際に母親主体で編み出していたらしい。玉蘭の息子である父親も、それに手を貸していた。事切れた原因は、それだ』
「……おふたりが」
記憶は朧気だが、義父となるはずだった彼は玉蘭の息子にしては穏やかな性格をしていたと思う。術の技術については目にしていなかったが、やはり母の出自の関係で無縁ではなかったようだ。死の間際でも、娘のために嫁と手を尽くすのは当然だ。玉蘭で補えない部分を、ふたりがかりで施せば……幾年かは保つだろう。その間に恋花も成長していくから、ある程度基礎が身につけば自然と呪は解けていく。
その仕組みを構築するくらい、ふたりであれば容易いはずだ。遠隔でも玉蘭の魂魄が見守っている環境であれば問題はない。なら、大きな問題はないのだなと素直に安心が出来た。大きな息を吐き、胸の奥のつっかえが取り除けたようだ。
『告げぬのは悪かった。てっきり、玉蘭から聞いていると思っていたが……あれは、時折はぐらかすからな?』
「そうだな。玉蘭殿であれば、梁から聞けとか色々面倒くさがるだろう」
導きの答えは、己で見つけ出せ。そんな荒っぽい指導をするのは、昔も今も変わらないようだ。
とにかく、義両親になるはずだったふたりの墓前にて、恋花にこの話を打ち明けることに決めた。今はまだ、城の中が荒れ狂っている。黄家の本家側の事も。だから、この保養地にいる間はのびのびと過ごさせてやりたい。紅狼もこれで、少しはのんびり出来そうだ。
あと、夜の楽しみがあるため。梁とその話になれば、次はどう活かすかなどと『漢』の話題へと切り替えていった。
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