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如何に婚姻まで(番外編)
第10話 一方、孤高の武官?とやらも
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なんだかんだで、恋花とのためだと説き伏せられたのだが。斗亜にそれなりの講義と言うものを耳に入れてもらっても……紅狼は本当に自分からせねばならないのに酷く羞恥を覚えたままだった。
如何に、自分の美醜が格上なのかは自覚はしている。従姉妹の緑玲が身近にいるので、良く知っているつもりだった。ただ、それで好奇の眼が疎ましいとずっと思いこんでいた時期が長すぎて……誰かを誠に愛おしく思ったことがなかった。身内への親愛は別ではあるものの。恋情は、本当に初めて過ぎて……記憶が戻ったことで、初恋の少女と結ばれたことに歓喜し過ぎて制御が効かないのだ。
斗亜から結局持って行けと押しつけられた書簡は、現在私室に使わせてもらっている後宮の端の部屋にまで持ってきた。刻限はまだ夕方だが、今日はもう仕事も特にない。復興作業も、粗方目処がついたので紅狼の出番もないのだ。武官の仕事も、急ぎのはなかった気がする。
恋花には会いたいが、邪な心情のまま訪問すれば……場所次第では、仲違いしたときのようになるので今は避けたかった。であるからして、ここは挑まねばと。書簡のひとつを手元に置き、開いて『勉学』することに決めたのだ。
決して、疚しい思いではないと心に釘を刺して。あくまで、恋花との将来を危惧しての勉学だと己に言い聞かせた。非常に、稚拙な言い訳だとは自覚していても。
「……女人の身体、とは。やはり、こうなのか?」
絵師に描かせたものでも、これは古い手であった。筆の取り方に注目が行くのは、やはり家柄は低くとも官位のある貴族の人間の性だからか。肉感を事細かに描いている技術の素晴らしさに意識が傾くが。途中で、これが愛する恋花に挿げ替えてしまったところで、勢いよく閉じた。刺激が強すぎて、少々想像しただけで鼻から血が噴き出しかけた。斗亜が選んだものでも、相手を恋花と例えろと注意は受けたが……紅狼にはやはり刺激が強すぎて、心の臓が酷く高鳴ってしまう。情けないが経験の無さのせいで、恋花をうまく誘導出来る自信がないのが不安で仕方ない。
この歳で、男のあれこれを何も経験してない人間もいなくはないが、極稀だ。斗亜は地位の関係で、緑玲以外も致したがあくまで地位の関係でしかない。愛するのは緑玲だけだと豪語しているし、皇妃となる彼女以外の妃らはこれを機に退室させる計画は秘かに進められている。祈雨妃のこともあったために、彼女以外の犠牲者を出したくないのも理由の一つだが。紅狼も、別に意は唱えないのでそれは構わない。
しかし、いざ己のこととなれば、話は別。唯一の女に、夜の営みを満足させられる技術は正直言って無い。もう一度、斗亜に教授を頼もうかと悩んでいれば、何故か頭を叩いてきたのは九十九の雷綺だった。
美麗な顔立ちが、酷く呆れ顔になっていて珍しいとは思ったが。
『……男なのに、情けないな』
「顕現していきなり、それを言うな」
女だが、己の九十九なので邪見にはしない。それにしても、いつもは無表情が多いのに、恋花の九十九と番になってからは紅狼のように感情が豊かになりつつある。宿主と九十九は感情が似ると言うが、早くも表れているとは。もしくは、雷綺が恋情を九十九でも男に抱いたからだろう。
そして、今言われたくない言葉で突かれて、割と胸が痛くなった。
『何を言う? あれだけ勢いがあったのに、恋花の反応ひとつで慎重になるのはわからなくもない。だが、そんな紙切れの裸体を見ただけで羞恥心が昂るとは情けないな?』
言いたい放題だが、正しくその通りだ。母や姉妹の肌なども、己が幼い頃以来に見てない。せいぜい、湯あみで湯舟に放り込まれた程度のことだ。断じて、好奇から触れてはいない。
「……そうは言うが、お前にも聞くぞ? 梁とそのような関係にまでなっているのか?」
『…………聞くな』
「ほら、俺のことを言えん」
『! だが、紅よりは知識があるぞ? 男女の営みは見たことがある』
「ちょっと待て? 誰のを見たんだ??」
九十九とて、そのような経験は宿主が関与していなければ『通常』はないはず。誰だと問い返せば、呆れた目をまた寄越してきた。
『紅の弟や妹が生まれたきっかけに決まっているだろう? 誰が好き好んで、あの斗亜のを観に行くか??』
「……そう、か」
実は、年の離れた弟妹がいるのはまだ恋花に話していないのだが。先に弟が結婚して子を成しているので、李家の跡継ぎはそちらに譲ろうとはしたものの。両親に呪詛や宮城内の襲撃事件。さらには、玉蘭の孫である恋花との婚約も久々の帰省後に話したところ……。
【是が非でも、早急に連れてきて嫁にしろ!!】
と、断定するように言われてしまったのもあるが、紅狼としても恋花以外には考えられないのでそれは頷くも。肝心の行動に移せないのが、酷く情けないのもまた事実。雷綺に言われてしまっては、行動を起こさないとわかってはいても……やはり、己の慎重さで恋花を手酷くしないかと思ってしまうのが本音だ。愚か者と揶揄されても、こればかりは初めての経験なので致し方ない。
無視は出来ない事柄でも、向き合う努力はしなくてはいかんと覚悟を決めて。
「……雷綺、頼む。指摘はしてくれ。出来るだけ読んでみる」
『そうしろ。我も梁とのために、共に読もう』
と言う展開になり、互いに別々の書簡を読みだしたのだが。豪語していた割には、雷綺も初心だという結果に終わった。同じように閉じてしまったからだ。
如何に、自分の美醜が格上なのかは自覚はしている。従姉妹の緑玲が身近にいるので、良く知っているつもりだった。ただ、それで好奇の眼が疎ましいとずっと思いこんでいた時期が長すぎて……誰かを誠に愛おしく思ったことがなかった。身内への親愛は別ではあるものの。恋情は、本当に初めて過ぎて……記憶が戻ったことで、初恋の少女と結ばれたことに歓喜し過ぎて制御が効かないのだ。
斗亜から結局持って行けと押しつけられた書簡は、現在私室に使わせてもらっている後宮の端の部屋にまで持ってきた。刻限はまだ夕方だが、今日はもう仕事も特にない。復興作業も、粗方目処がついたので紅狼の出番もないのだ。武官の仕事も、急ぎのはなかった気がする。
恋花には会いたいが、邪な心情のまま訪問すれば……場所次第では、仲違いしたときのようになるので今は避けたかった。であるからして、ここは挑まねばと。書簡のひとつを手元に置き、開いて『勉学』することに決めたのだ。
決して、疚しい思いではないと心に釘を刺して。あくまで、恋花との将来を危惧しての勉学だと己に言い聞かせた。非常に、稚拙な言い訳だとは自覚していても。
「……女人の身体、とは。やはり、こうなのか?」
絵師に描かせたものでも、これは古い手であった。筆の取り方に注目が行くのは、やはり家柄は低くとも官位のある貴族の人間の性だからか。肉感を事細かに描いている技術の素晴らしさに意識が傾くが。途中で、これが愛する恋花に挿げ替えてしまったところで、勢いよく閉じた。刺激が強すぎて、少々想像しただけで鼻から血が噴き出しかけた。斗亜が選んだものでも、相手を恋花と例えろと注意は受けたが……紅狼にはやはり刺激が強すぎて、心の臓が酷く高鳴ってしまう。情けないが経験の無さのせいで、恋花をうまく誘導出来る自信がないのが不安で仕方ない。
この歳で、男のあれこれを何も経験してない人間もいなくはないが、極稀だ。斗亜は地位の関係で、緑玲以外も致したがあくまで地位の関係でしかない。愛するのは緑玲だけだと豪語しているし、皇妃となる彼女以外の妃らはこれを機に退室させる計画は秘かに進められている。祈雨妃のこともあったために、彼女以外の犠牲者を出したくないのも理由の一つだが。紅狼も、別に意は唱えないのでそれは構わない。
しかし、いざ己のこととなれば、話は別。唯一の女に、夜の営みを満足させられる技術は正直言って無い。もう一度、斗亜に教授を頼もうかと悩んでいれば、何故か頭を叩いてきたのは九十九の雷綺だった。
美麗な顔立ちが、酷く呆れ顔になっていて珍しいとは思ったが。
『……男なのに、情けないな』
「顕現していきなり、それを言うな」
女だが、己の九十九なので邪見にはしない。それにしても、いつもは無表情が多いのに、恋花の九十九と番になってからは紅狼のように感情が豊かになりつつある。宿主と九十九は感情が似ると言うが、早くも表れているとは。もしくは、雷綺が恋情を九十九でも男に抱いたからだろう。
そして、今言われたくない言葉で突かれて、割と胸が痛くなった。
『何を言う? あれだけ勢いがあったのに、恋花の反応ひとつで慎重になるのはわからなくもない。だが、そんな紙切れの裸体を見ただけで羞恥心が昂るとは情けないな?』
言いたい放題だが、正しくその通りだ。母や姉妹の肌なども、己が幼い頃以来に見てない。せいぜい、湯あみで湯舟に放り込まれた程度のことだ。断じて、好奇から触れてはいない。
「……そうは言うが、お前にも聞くぞ? 梁とそのような関係にまでなっているのか?」
『…………聞くな』
「ほら、俺のことを言えん」
『! だが、紅よりは知識があるぞ? 男女の営みは見たことがある』
「ちょっと待て? 誰のを見たんだ??」
九十九とて、そのような経験は宿主が関与していなければ『通常』はないはず。誰だと問い返せば、呆れた目をまた寄越してきた。
『紅の弟や妹が生まれたきっかけに決まっているだろう? 誰が好き好んで、あの斗亜のを観に行くか??』
「……そう、か」
実は、年の離れた弟妹がいるのはまだ恋花に話していないのだが。先に弟が結婚して子を成しているので、李家の跡継ぎはそちらに譲ろうとはしたものの。両親に呪詛や宮城内の襲撃事件。さらには、玉蘭の孫である恋花との婚約も久々の帰省後に話したところ……。
【是が非でも、早急に連れてきて嫁にしろ!!】
と、断定するように言われてしまったのもあるが、紅狼としても恋花以外には考えられないのでそれは頷くも。肝心の行動に移せないのが、酷く情けないのもまた事実。雷綺に言われてしまっては、行動を起こさないとわかってはいても……やはり、己の慎重さで恋花を手酷くしないかと思ってしまうのが本音だ。愚か者と揶揄されても、こればかりは初めての経験なので致し方ない。
無視は出来ない事柄でも、向き合う努力はしなくてはいかんと覚悟を決めて。
「……雷綺、頼む。指摘はしてくれ。出来るだけ読んでみる」
『そうしろ。我も梁とのために、共に読もう』
と言う展開になり、互いに別々の書簡を読みだしたのだが。豪語していた割には、雷綺も初心だという結果に終わった。同じように閉じてしまったからだ。
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