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第41話 あの女官は
しおりを挟む「緑玲妃様!!」
礼儀作法などを丸無視して、恋花は彼女の私室に駆け込んだ。中では、緑玲妃が侍女や女官らを宥めていた。おそらく、あの女官が無残な姿で殺されたことを聞いたのかもしれない。
「……恋花」
いきなり駆け込んできた恋花の態度を諌めることなく、緑玲妃は弱々しく微笑むだけだった。
「……ご無礼、お許しを」
梁と共に、最敬礼をし直しても普通なら咎める存在が誰もいない。それだけ、この後宮で惨い事件が起きたからだ。
「……いいのよ。伝え聞いたけど、今日休息だったあなたを含める四人が見たのね?」
「……はい。大きな声が聞こえて、皆で向かいました」
「……そう。陛下方が検分なさっていると、今知らせがあったの。だけど」
「……だけど?」
聞き返すと、緑玲妃は細く長い息を吐いたのだった。
「殺された女官は、わたくし付きの子だったの」
「!? 本当……ですか?」
「ええ。日の浅いあなたはまだあまり話したことがないでしょうけど、本当よ。わたくし付きの女官を殺したとなれば、これは単純な殺しの問題ではないわ」
緑玲妃は椅子から立ち上がり、左右で泣き崩れている女官や下女に『大丈夫』と声をかけてから恋花の前に立った。そして、ふわりと抱きしめたのだ。
「! 緑玲……妃様?」
「あなたの方が辛い目に遭ったのに、わたくしを心配して駆けつけてくれたのね。……あなたは、とても優しい子ね」
「……そうでしょうか」
「ええ、そうよ。主人を気遣う義務も動いたでしょうけど、あなたの顔を見ればわかるもの」
優しいかどうかはわからない。
ただ、居ても立っても居られないだけだった。この美しく優しい女性に何かあっては、哀しむ以上の感情が溢れそうになっただけで。
それだから、駆けつけただけなのに……ずっとずっと優しいのは緑玲妃の方だ。自分付きの女官が殺されたと言うことは。
これは、暗殺計画の一歩手前ではないのだろうかと……恋花でも思い至ることが出来た。だけど、料理以外何も役に立たない恋花が出来ることといえば、麺麭作りしかない。
恋花は、緑玲妃に断りをひとつ入れてから、点心局に梁と向かった。
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