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第597話 叱ろうにも

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 私は改めて、ケントに叱ってやらねばならなくなった。

 というか、頼まれたのだ。


「「ヴィンクスさん! ケントを叱ってやってください!!」」


 スバルの常連であり、ケントとは友だちでもある冒険者パーティー『シリウスの風』の若いメンバー。トラディスとシェリーに、頼まれたのだ。わざわざ、私の工房に来てまで。


「は? 意味がわからないんだが?」

「どうしたのー?」


 ケントを引きずってきた二人が、工房に入るなりそう言い出した。話の前振りが特になかったため、弟子のケントがまた何か無自覚チートをしてしまったのかとは思ったが。

 しかし、カウルのことを含めての報告を聞いたにしては日にちが経ち過ぎているし、この二人が今更言い出すにしてもおかしかった。

 なので、ジェイドと事情を聞くのに工房の奥へと通した。

 そして、ケントは我々の間で正座させられるのであった。


「……何故ケントは黙っているんだ?」


 本人にまず問いかけると、縮こまったように肩をすぼめて俯いているだけだ。ということは、自分で自覚するほどの失態をしたと言うのか?


「ケント? なんかしたの?」


 ジェイドが人数分の茶を用意してやって来ると、まずトラディスの方が挙手し出した。


「はい! ケントは自覚無さ過ぎなんです!」

「「自覚無さ過ぎ??」」

「そうなんです! ケントは自分が規格外過ぎる、注目される人材だって言うことを」

「私も思います!」

「「……ああ」」


 シェリーも強く頷いた発言内容だったが、それは私にも該当する箇所。

 異世界からの転生者。

 神に、チートな特典をつけられた存在。

 であるのが、当たり前過ぎて、忘れがちではあった。自分たちはこの世界ではどれほど規格外だったかというのを。


「ああ……って」

「それについては、私もだ。残念ながら、ケントの心情に共感は出来るが叱るのは難しい」

「……えぇえ」

「実際そうだ。私とて、異世界からの転生者であり、規格外の能力の持ち主だ。それが当たり前過ぎて、自覚するのはだいぶ昔に出来たが……ケントは、転生者でも色々特殊だ。赤ん坊の時からこの世界で過ごしてきたわけじゃない」


 そう思うと、あの神の意図は色々とよくわからんがな?


「え? ケントって、こっちで生まれ変わったんじゃないの?」

「え、言ってなかったっけ? 身体はこのままで転生させられたって」

「「聞いてない!!」」

「……色々説明せねばならんな」


 ずぼらにしていたつもりではないだろうが、時々ケントは抜けてしまうところがあるからな?

 とりあえず、トラディスらへの説明も兼ねてケントはもう一度転生時の経緯を話してくれたが。

 私の時とは違い、ラノベとかのテンプレのような内容だなと思ったよ。
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