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第594話 トラディスについて
しおりを挟む『ねぇ、シェリー? トラディスってモテないの?』
『逆よ逆。ジェフやレイザーさんとは別の意味でモテるわ。癒し系王子様って』
『……実際王子様だもんね』
トラディスがちょっとトイレに行っている間に、僕はシェリーにトラディスのことをこそっと聞いた。どうやら、トラディスは自覚がないのに大変おモテらしい。だけど、誰も好きな人がいないようにも見えるそうだが。
『文通している、エルフさんはいるのよ』
『エルフさん?』
『ジェフとレイザーさんと結成をした場所で出会ったそうなの。一時的にパーティーも組んだんだって』
『へぇ?』
エルフっていうと、僕はルゥさんくらいしか女性エルフさんの知り合いはいないけど。
美魔女?
美少女?
美人系?
色々タイプはいるって聞いたけど……そのエルフさんはどんな人なんだろう? トラディスがわざわざ文通しているって事は、好きな相手だと勝手に思っちゃうんだけどね?
「……何コソコソ話してるの?」
戻ってきたトラディスに首を傾げられたので、ここはシェリーと突撃だ!!
「トラディス!! 好きな人いないの!?」
「前から文通してるエルフさんじゃないの!?」
「は? は? え? マシュさん??」
そのエルフさんはマシュさんって言うんだね? 名前のイメージだけだと可愛い感じだけど。
「トラディスって、めちゃくちゃモテるって今聞いたんだ! なのに、誰とも付き合う気ないの!?」
「え? え? モテる? 僕が??」
「そうよ! レイザーさんの弟なんだから、イケメンじゃない!」
「……いやいやいや? お兄さんはお兄さんだけど、ジェフさんみたいなかっこよさはないし」
「「あるって!?」」
「えぇえ?」
『マスターは自己評価ひっくいからなあ? ワイと出会う前はそりゃ酷い扱い受けてたせいもあるわ』
「酷い扱い?」
「戦災孤児になってたことは聞いたけど……他にもあったの??」
「んー。まあ、フランツに出会うまでは……所属してたパーティーで奴隷扱いされてたから?」
『実際そうやったやないか』
「「えぇえ!?」」
王子様を奴隷扱い!?
身分もだけど、人をそんな虐待することさせてただなんて許せない!!
今は大丈夫らしいけど、トラディスは僕らの驚いた顔を見て苦笑いしてた。
「もともと、あっちは犯罪者だったし。僕も知らない間に手伝いさせられてたけどね。フランツやジェフさんたちと出会ったばかりの頃のギルドでお世話になったギルマスさんのおかげで、捕縛とかは免れたけど」
「……そうなの?」
王族だからって、苦労してない人はいないとは思ってはいたけど。トラディスのそれは想像以上だった。前世で友人らが読んでたラノベの主人公のようだ。ある意味僕もそうだけど……僕は幸せな出会いしかしてない幸福者。
もちろん、障害がないわけじゃないけど、トラディスとは比べ物にならない。
トラディスは本当に人生の大半を苦労で育った人間だったんだ。
「だから。フランツを手に入れた後に、逃げ出したんだ。それまでの生き方から逃げたくてね。それから、ジェフさんやお兄さんとパーティーも組めたし、シェリーも加入してくれた。今がすごく幸せだから、無理に好きな人とか意識してないんだ」
『相変わらず、欲無いなあ?』
「そうかな?」
「……いい人過ぎる」
「そうよね……」
仏様の権化とでも言いたくなるよ。
その達観しているところがあるから、今のイケメンにモテのオーラが加わっているんだろう。
だ、け、ど!
「だったら、今幸せならもっと幸せになろうよ!」
「ケント?」
「人間だったら、好きな相手とか出来て不思議じゃないんだから! マシュさんってエルフさんと文通してても……その人とは友達なの?」
異種族結婚とかは、この世界では問題視されていないってロイズさんたちに聞いたから大丈夫だからね!
僕が強気で聞くと、トラディスは何故か首をひねった?
「いや、その」
「「うんうん」」
「恋愛したことないから……違いがよくわかんなくて」
「恋の応援はしたのに!?」
「それは……応援しない?」
「おいいいいい」
この人、下手すると僕以上に恋愛初心者以下だ!?
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