スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ

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第567話 うきうき気分だったが

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 陛下……エリシオン様に呼んでいただけた。

 語らうだけの時間ではなく、少し特殊なお願いをされると言うことでヒーディア城に伺った。次期王妃になることは決まって、日々英才教育を養うのに正直言って疲れていた。

 そんな日常から、愛する御方にお会い出来る機会が出来たのだもの。お茶会ではないにしても、嬉しいことに変わりないわ。

 だから、顔には出さないように気をつけて伺ったのだけど。


「……なんですか、これは」


 お願いと言うことで、鑑定眼鏡で確認したケント様のところのポーションパンを確認したのだが、効能が異常過ぎた。

 以前購入したものよりも、はるかに優れているパンたち。

 見た目はすごく美味しそうだが、効能は回復よりも付与が強いものばかり。しかも、魔法だけでなく元素を付与という異常さだ。


「ケントの魔導具に意思が宿り、そいつを使って作ったパンがこれだ」


 陛下はこれらを使って、既に魔法を試されたらしいがひとつで禁術近い結果となったそうだ。そんなポーション……しかも、パンであっていいのだろうか? 陛下の大親友でいらっしゃるあの方は、本当に何者なのだ?

 ルカリアの上司でもあるけれど、陛下と同い年にしては能力が高過ぎる。錬金術師としても、Sランクにいてもこれらを生み出せるのはやはり異常だ。


「元素と魔法を付与……私にもこれを試せと?」

「リリアが嫌じゃなければな」

「試させてください」


 ポーションパンの美味しさは当然知っているが、こんな機会を逃せば後悔しか残らないだろう。

 種類と量はかなりあるが、せっかくなので私の得意分野である水系統にしようと手に取ったのは焼いたベーコンととろけるチーズが目で見て楽しい組み合わせ。

 しかしながら問題がひとつ。

 このパンは美味しそうではあるけれど、強度が然程ない。パイのような質感もあってポロポロと表面が崩れていくのだ。

 陛下の前で、惨めな姿をと前なら思ったが……今は想い合う者同士。それに食事をする機会など、結婚したらいくらでもある。これはその前段階と思って……パンを口に運んだ。

 予想以上に、サクッとした食感に驚いたけれど……何より味。

 贅沢過ぎるほどのバターの味わいに、甘くてしょっぱい味。その暴力的な波が口に押し寄せてくるのだ。加えて、間に挟んである具材の組み合わせがとても素晴らしく。

 勢いで食べそうになるのを気をつけながら、もぐもぐと食べていく。やはり、ケント様のパンは美味しい。市井を通り越し、王族御用達と看板を掲げるのも頷ける味だ。

 ただ、感動していたら……頭の中に声が響いてきた。陛下ではない違う殿方の声が。



『付与……付与。

 元素、【水】をリリア=フォンベルトへ付与。

 元素を付与されたことにより、魔法レベルが大幅にアップ。

 上級から超級へアップ。

 超級への完了。付与の余白があるため、さらに超弩級へアップ。

 水系統の魔法のほとんどを使用可能』



 アナウンス……これは、神のお言葉。

 陛下も試されたということは、このアナウンスを聞かれたはず。

 振り返れば、陛下はわかっていらしたのか苦笑いされていた。


「リリアにも付与されたか?」

「これは……ポーションで片付けられません。エリクサーに匹敵します」

「だろう? だから、ケントには作るのを止めさせた」

「ええ。戦争の火種になりますわ」


 魔導具ひとつでこの差を作るのは容易ではない。一体……何がどうやって可能にされたのか気にはなったが、私なんかが口出ししてはいけないと言うのを止めた。

 代わりに演習場で付与された魔法の威力を確かめたのだけど……陛下やギルハーツ様が大口を開けてしまうほどの、氷の山を瞬時に生み出す勢いにまで成長してしまったわ。
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