スライムからパンを作ろう！〜そのパンは全てポーションだけど、絶品！！〜

第536話 惚れた相手が④

　諦められないでいた。

　留学していても、ずっとずっと心に秘めていた想いを……どうしても、忘れられないでいたのだ。

　どうせ自分はあの方には妹分扱いしかされていないと、留学の話を受ける前はそう思って諦めようとはしていた。

　だけど、想いが成就せずとも見た目だけでも変えようとそれなりに努力して数年。帰国の時期が来たら、まあ縁談の申し込みが山のように来たけれど……どれもこれもが陛下となられたエリシオン様のようにお強くない弱っちぃ殿方ばかり。

　だから、伯爵令嬢の特権を使ってすべて蹴ってやったのだ。

　だが、同じ伯爵の家柄である親友のルカリアがいつのまにか先に婚姻されたと聞いた時は驚いた。王族貴族でもなく、しかも人間でもない。

　城下町に滞在されている『創始の大精霊』様と結ばれたと、最初は絵空事だと思いかけたが、あの子が下手な嘘をつくはずがない。確かめるついでに、彼女が『勤務』していると言うパン屋に出向くことにした。

　ただのパン屋ではなく、留学先でも噂が立っていた『ポーションパン』を唯一販売する特殊なお店。

　店構えはおしゃれだが、殿方もだが女性も多い。冒険者から庶民まで様々。

　戸棚にポンと置いてあるのも驚いたけれど、特殊な包み紙に包まれていて、中身はとても美味しそうだったが効能も凄い。名札にきちんと書かれているが、薬品のポーションと違い最低でも三つもあるとは驚きだ。

　これは是非食べてみたいといくつか選んだ時に……出会えたのだ。

　姿は魔法で変化していたが、愛しいあの御方。エリシオン陛下に。

　目が合った時は、最初素敵過ぎる殿方だと思ったけれど。後ろの若い殿方が『エディ』と呼ばれた時に、『ああこの方が……』と私は確信したのだ。

　諦めようとしていた気持ちは、萎えるどころか再燃していくのだと。

　それに、陛下は私に最初気づかず。変わり過ぎた外見に幾らか心をときめかせてくださったようだ。

　これは、またとない好機だと、私は猛アタックすることを決意したのだ。

　ルカリアには『頑張ってくださいまし』と応援された。ケント様とおっしゃる陛下のご親友は陛下と何か耳打ちされているが、私に対して何かお話されているのだろうか？

　少なくとも、悪いお話ではない雰囲気ではあるようだが。


(この外見は受け入れていただけたし、中身も見ていただいたあの感触は！)


　陛下の苦笑いを見る限り、悪くはないと思う。

　なら、稽古を理由にもっとアタックするまでよ！！

　とりあえず、ルカリアとお茶の約束をしようとしたのは本当なので、彼女から了承をいただいてからポーションパンの袋を持って屋敷に帰ることにした。