上 下
412 / 560

第412話 本望からのキス

しおりを挟む
 やはり。


 俺の心は……間違っていなかった。


 俺は、やはり。



 この人間の少女を……欲していたのだ。人間で言う本能と同じように。


 己の手で、消滅させた闇の精霊の事を言えないではないか。


 想いを自覚した期間は、奴よりは短いが。



 甘い香り。



 優しいその匂いも。



 柔らかな身体も。



 芯の強いようで、実は控えめなその心と魂も。



 その全てが……愛おしい。



 ようやく出会えた……俺のつがい



 だが、ルカリア自身が受けてくれるかどうか。



 その答えが……まだ、俺を想ってくれている心が残っているかどうか。


 聞くのが怖くて、俺は彼女を強く抱きしめたままでいた。



「ら……ラティスト、様?」



 困らせているのはわかる。


 しかし……離したくはない。


 俺と番えば、人間でなくなることも告げていない。


 だけど。


 どうしても。


 俺は……この腕の中の存在を手放したくなかった。


 さらに力を込めてしまうと、さすがにルカリアも苦しくなったのかくぐもった声を上げたので……致し方ないが、緩めた。


 少し顔を覗いてみたところ、ルカリアは顔をトマトのように真っ赤にさせて……泣きそうな表情にさせていた。


 その扇状的な顔つきに、俺はもう……耐えきれず。



「……好きだ。ルカリア」



 端的な言葉で告げ、思うがままに彼女の唇を奪った。意識体を飛ばす時は緊急だったために、感触を味わう余裕はなかったが……今度は違った。


 涙に濡れていたのか、塩気があっても柔らかな唇。


 ずっと啄んでいたくなるが、まだ彼女からの言葉をもらっていない。


 それに思い至って、すぐに離してやれば。


 彼女は大粒の涙をポロポロとこぼしていた。嫌だったか……と小さな声で問いかけてしまったが、ルカリアは強く首を横に振って。



「お……お慕いしておりましたの。う、嬉しゅうございます!」


 その答えが……胸に染み込んでいくようで。


 俺まで少し涙が出てしまったが、気にせずにもう一度……ルカリアの唇に自分のを重ねたのだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,287pt お気に入り:1,135

メロカリで買ってみた

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:340pt お気に入り:10

紅雨 サイドストーリー

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:4

アンバー・カレッジ奇譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:0

転生したらオメガだったんだけど!?

BL / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:163

ほろ甘さに恋する気持ちをのせて――

恋愛 / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:17

梓山神社のみこ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:511pt お気に入り:0

ホロボロイド

SF / 連載中 24h.ポイント:298pt お気に入り:0

文化祭

青春 / 完結 24h.ポイント:568pt お気に入り:1

処理中です...