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第355話 当たり前の今
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花束を持っているので、ゆっくり落ち着いて街に出たのだけれど……予想以上の人混みに、花がつぶれてしまわないか気遣うのが大変だったわ。
これまでは、祝典日だなんて家にこもっているしか出来ない時だったから……わざわざ出歩こうとも思わなかった。
だけど、目がきちんと見えるようになって……リハビリを繰り返したお陰で、普通の人間に戻りつつある今は。
市場や街並みがいつもと違うことに、新鮮な光景を目で見ることが出来て……あちこち目移りしてしまうのだ。どれもこれも、今までは耳と鼻で感じることしかわかっていなかったのに。
今は、全く違う。
目で見て、鼻で匂いを感じ……耳に騒がしい声が聞こえることで、すべてが合致するのだ。どれもこれもが。
(……これが、障害のない私の現実)
他の人達からしたら、何もかもが当たり前の出来事でしかないだろうが。それすら、呪いで制限されていた私にとっては違っていた。ぼんやりとしか見えていなかった視界が、全部鮮明になっていることが……私には嬉しいことだから。
その恩人である、ヴィンクスさんからのポーションのお陰もあって、今がある。会いたいけど、彼は今この街にはいないから……せめて、と、まだお礼をきちんと言っていない、お弟子のケントさんのところに行かなくては。
これまでは、お母さんと一緒に買いに行ってはいたけど……ひとりは初めて。美味しいパンとしても食べられるけど、ポーションだなんて最初信じられなくて。不安だったけど、同じ年頃の男性が切り盛りしているって聞いた時にはびっくりしたわ。そんな若い男の人が、もう店を持っているんだもの。
実際に言葉を交わしたのは、私の目の呪いを解呪出来たあの日。ちょっと可愛らしい見た目の男性だったけど、優しい人だなって思ったの。お母さんと買いに行った時は、ラティスト……さんが冒険者の女性に口説かれているのを、なんとか会計に持ち込んでいたのをお母さんが頑張っていたから……実際に会うのは、その時が初めてだった。
とにかく、お店の『スバル』に向かって進んでいたら……近くなるにつれて、人混みがさらに増えているような気がした。
なんでだろうと思ったけど、強い匂いが鼻で感じ取れると、理由がわかったかもしれない。だって、とっても美味しそうな匂いだもの。
「はい! 次の方どうぞ~」
低いけれど、少しだけ高い男性の声。
覚えのある、ケントさんの声だわ。
やっぱり、お店の外で屋台を出しているのかもしれない。そうとくれば、この人混み……のように見えた、列に並ぼうとしたんだけど。
「あら、レイアさんじゃない?」
呼ばれたので振り返れば、赤い髪が綺麗な女の子が立っていた。誰だったかしら? と、すぐに思い出せなかったけれど……彼女は私をもう一度見ると、『こっちに来て』と誘導してくれたのだった。
これまでは、祝典日だなんて家にこもっているしか出来ない時だったから……わざわざ出歩こうとも思わなかった。
だけど、目がきちんと見えるようになって……リハビリを繰り返したお陰で、普通の人間に戻りつつある今は。
市場や街並みがいつもと違うことに、新鮮な光景を目で見ることが出来て……あちこち目移りしてしまうのだ。どれもこれも、今までは耳と鼻で感じることしかわかっていなかったのに。
今は、全く違う。
目で見て、鼻で匂いを感じ……耳に騒がしい声が聞こえることで、すべてが合致するのだ。どれもこれもが。
(……これが、障害のない私の現実)
他の人達からしたら、何もかもが当たり前の出来事でしかないだろうが。それすら、呪いで制限されていた私にとっては違っていた。ぼんやりとしか見えていなかった視界が、全部鮮明になっていることが……私には嬉しいことだから。
その恩人である、ヴィンクスさんからのポーションのお陰もあって、今がある。会いたいけど、彼は今この街にはいないから……せめて、と、まだお礼をきちんと言っていない、お弟子のケントさんのところに行かなくては。
これまでは、お母さんと一緒に買いに行ってはいたけど……ひとりは初めて。美味しいパンとしても食べられるけど、ポーションだなんて最初信じられなくて。不安だったけど、同じ年頃の男性が切り盛りしているって聞いた時にはびっくりしたわ。そんな若い男の人が、もう店を持っているんだもの。
実際に言葉を交わしたのは、私の目の呪いを解呪出来たあの日。ちょっと可愛らしい見た目の男性だったけど、優しい人だなって思ったの。お母さんと買いに行った時は、ラティスト……さんが冒険者の女性に口説かれているのを、なんとか会計に持ち込んでいたのをお母さんが頑張っていたから……実際に会うのは、その時が初めてだった。
とにかく、お店の『スバル』に向かって進んでいたら……近くなるにつれて、人混みがさらに増えているような気がした。
なんでだろうと思ったけど、強い匂いが鼻で感じ取れると、理由がわかったかもしれない。だって、とっても美味しそうな匂いだもの。
「はい! 次の方どうぞ~」
低いけれど、少しだけ高い男性の声。
覚えのある、ケントさんの声だわ。
やっぱり、お店の外で屋台を出しているのかもしれない。そうとくれば、この人混み……のように見えた、列に並ぼうとしたんだけど。
「あら、レイアさんじゃない?」
呼ばれたので振り返れば、赤い髪が綺麗な女の子が立っていた。誰だったかしら? と、すぐに思い出せなかったけれど……彼女は私をもう一度見ると、『こっちに来て』と誘導してくれたのだった。
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