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第328話 奪われた初めて

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 俺は今、どんな状況なんだ?


「る……ルゥ?」


 俺は今何故……ルゥに攻められているんだ?

 いきなり、転移魔法で登場したかと思いきや、執務机にいた俺を床に転がして……ドンっと音がしたと思ったら、足蹴にされていた。本気なのか、押さえられた腹が地味に痛いんだが!?

 あと、だいぶ見慣れていても、水着アーマー姿のルゥを見上げるのは非常に目の毒なんだが!? こいつ、俺が自分を好いているのに気づいてんのか? わざとだったら、タチが悪い!!


「んもぉ、焦らしに焦らされてるこっちの身にもなってぇん?」

「……は?」


 笑い方がいくらか怖いが、口にした言葉と矛盾している声音に意味がわからず、変な声を出してしまった。

 わからないでいると、ルゥは腹に乗せている足で俺をさらに押した。


「あーらん? わかっているでしょ?」

「……全然わからん」

「このアタシを待たせ過ぎじゃない? おバカ坊主」

「……その呼び方懐かしいな」


 実際、今でもエルフにとっちゃガキに変わりないが……見た目だけは追いついたってところだよな。と、振り返っている場合じゃねぇ!? 腹がどんどん押されていくんだが!!?


「二十年よん? 二十年!! キミが成人するまで待ってたのにぃ。老化の呪い程度でキミが諦めてたんでしょぉ? ケントちゃんのお陰で呪いも解けたのに、なんでまた待たせるわけぇ??」

「ぐ……苦し!?」

「覚悟出来てるぅ?」

「な……にが?」


 痛みにうめいていると、ふいに目の前が暗くなり……腹の痛みはまだ続いたが、口に何かが触れた。柔らかくてあったかい……何か。

 それがわからないほど、今の状況を理解出来んくらいバカじゃない。


「も、ほーんと。アタシも待ったバカだけどぉ、キミから言って欲しかったわ~」


 さっきより異常に近い、ルゥの呆れた様子の声と顔。

 その近さとさっきしてやられた事態を察するに、俺はこいつに奪われたってことか。取っといたわけじゃないが、初めてのキスを。


「……悪かったよ」


 いつから……っつーと、さっき二十年って言ってたが。俺がルゥに恋心を持った頃から気づいていたのか。んで、律儀に待っててくれたのか。

 俺の返答で、押さえてた足を離してくれ……立ち上がる勢いで、俺はルゥを抱き寄せて今度は自分からキスを贈った。


「……責任、取ってくれるん?」

「当然だ」


 場所が場所なので、もつれ込むことは出来んが。

 そこから何回かキスをすることでお互いの気持ちを確かめ合うことにした。

 ちなみに、何故わざわざ転移で来た理由を聞いたんだが……ヴィーから『さっさと自分で行け』と焚き付けたらしい。あいつは、俺に見合いの話がわんさかきていたのを知ってたからな。んでもって、ルゥの気持ちもとっくに気づいていたんだと。

 自分のことが落ち着いたからか……まあ、余裕が出来たんだろうな。

 とにかく、俺は長年の初恋が無事に実ったわけだ!!
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