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第285話 休まないなら

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「ありがとうございましたー」


 いつも通り。

 ほんとうにいつも通りのポーションパン屋を営業していて。

 今日は、この間ひとりでお使いに来てたリト君って男の子が……お父さんと元気になったお母さんも一緒に来て、いろんなパンを買ってくれた。

 ご両親は、僕とかにぺこぺこと何度もお辞儀をして。

 ありがとうございました、と何回も言ってくれた。

 純粋に嬉しくて、『お役に立ててよかったです』と僕は返した。

 その言葉以外、僕は必要ないと思ったから。

 だって……本当に役に立てて嬉しかったから。


(……ちょっとずつ。広まっていってるんだなあ)


 自分達の為しか考えていない……ダメなお貴族さん達は、もうこの店には来ない。

 エディが、王様として。

 ディルック様達も、いい貴族として。

 たっくさん頑張っているから……営業がしやすくなっているんだ。

 王家御用達になったけど、リト君のお使いの噂がいつのまにか広まって……以前のように、主婦さん達も買いに来るようになった。

 だから……営業しやすく、僕はいつも通りにカウルとラティストとポーションパンを作ることが出来る。

 そんな穏やかな日が続いていくのは……嬉しい。

 まだまだたくさん作りたい。

 もっといろんな人達の役に立ちたい。

 と思っていたんだけど。


「今日は休暇でやんすよ、ケン兄さん」


 お店の定休日に、リビングでパンのレシピを書き出してたら……カウルに叱られちゃった?


「え? でも、パン作りはしてないし」

「それでも勉強と同じじゃないでやんすか! 昼寝とか気晴らしも大事でやんすよ?」

「んー。僕眠くないし」

「……だったら、エリーと出掛けてこい」


 って、急に入ってきたラティストの後ろには!

 エリーちゃんが『やっほー』って言って立ってたあ!?


「エリーちゃん!?」

「働きすぎのケントを連れ出せって呼ぶから、びっくりしたけど」

「……エリーちゃん。お仕事は?」

「今日は特にないわ。シェリーとかとも約束ないし」

「「行ってこい!!」」

「……はい」


 カウルにも強く言われたら、行くしかありましぇん。

 なので、ちょっとぶりにエリーちゃんとのデートだ。

 とは言っても、下手に街中を歩き回るといろんな人達に声をかけられるので。

 ゆっくりするために、いつもの湖へ行こうかと提案しようとしたら。


「……ケント。ちょっとお願いが」

「お願い?」

「……あたしの両親に会って欲しいの」

「はいぃ!?」


 いきなり、ご実家訪問イベントが発生したあ!?

 僕が驚いていると……エリーちゃんはもじもじしながら説明をしてくれたんだよね?

 彼氏が出来たんなら、さっさと連れてきて挨拶させろって。
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