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第246話 令嬢の悲嘆

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 まあ……まあまあまあ!!

 なんと言うことでしょう!!

 素晴らしいポーションパンばかりですわ!!

 ですが……それ以上に。


(……わたくしの恋は、砕けましたの)


 まさか……まさか、本当に。

 ラティスト様が……『ラティスト=ルーア=ガージェン』様。創始の大精霊様だっただなんて。

 わたくしは……なんとおこがましい欲望を抱いてしまったのでしょう。

 店主様……ケント様の契約精霊であることは、我が屋敷でお出迎えするなど叶わず。

 わたくしの恋心などと……届かないも当然ですわ。

 この方は、人間ではありませんもの。


(ああ……ああ、ですが!)


 ケント様とお作りになられたであろう……ポーションパンへ向ける眼差しは、とてもお優しいですわ!!

 無表情が常と謳われていた……鋼の仮面が、ゆるんでいらっしゃいますもの!!

 たしかに……ケント様のポーションパンは至高と言っていいくらいの美味ですけれど!!


「おーい、ルカも食おうぜ?」


 悲嘆に暮れていますと……陛下がわたくしを愛称で呼びましたわ!?


「へ、陛下!」

「いーんだよ。お前だって、ケントの味方だろ?」

「……そうですけれど」


 恋が砕けても……ケント様を恨む気持ちは出てきませんでした。

 それほど……ケント様はお優しいのです。

 陛下が『エディ』であってもどちらでも……この方を『友』だと、陛下が断言されるくらいなのですから。


「あ……よく来てくださる、お嬢様ですよね?」

「はい。イシュラリア伯爵の娘、ルカリアと申します。名乗り遅れて申し訳ありませんでした」

「いえいえ。……どうしてそんな格好を?」

「陛下の護衛ですわ」


 本音は、ラティスト様にお会い出来るからへの勝手な申し出ですが。

 今は口にしてはいけませんので……言いませんわ!


「お強いんですね! エリーちゃんみたい!!」

「そう言えば、君ら付き合ったんだよなあ?」

「エリー、ちゃん?」

「エリザベス=バートレイン。『真紅の鷹』って噂のBランク冒険者だぜ?」

「まあ!」

「……エリーちゃんそう呼ばれてるの?」

「ここいらはだけどな?」


 そんな素晴らしい冒険者が……ケント様の恋人?

 ますます……ラティスト様にお近づき出来ませんわ!!

 あの女性……BランクでもAランクに近い実力だと聞きますもの!!


「あ、たくさん食べてください! このパン達、まだお店に出すかは決まっていないので」

「……よろしいですの?」

「ええ。エディひとりじゃ食べ過ぎですから」

「……ケント様は陛下のお友達ですから、歳下のわたくしに敬語は不要ですわ」

「え……いい、の?」

「わたくし、十六ですので」

「……じゃあ」


 せめて……せめて。

 契約主にお近づきになり……お友達になることは、お許しくださるでしょうか? ラティスト様。
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