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第231話 欲しい食材

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 せっかく、パンを献上するのであれば。

 塩っぱいのだけじゃなく……甘いパンも作りたいんだよね?


「……うーん」


 エリーちゃんからのプレゼントである、レシピ辞書の魔導具と僕は睨めっこ。もちろん、営業と夕飯が終わってからだけど。


「……何がいいかなあ?」


 あと数日で迎える……お城での勲章授与の日。

 移動は……使者さんが、専用の魔法陣を持ってくるから瞬間移動で行けるらしい。

 って、エディが言っていたけど……エディって本当にどう言う人なんだろう?

 お貴族さんらしいけど、一応冒険者でもあるし……でも、王様とも仲良いらしいし。けど、僕の友達……マブダチだから、信頼はしているけどね?

 移動に何日とか何時間もかからないなら……パン作りの方に集中出来るのはありがたい。

 だから……今レシピ辞書と睨めっこしているんだ。


「決まらないでやんすか? ケン兄さん」


 カウルがお茶を持ってきてくれたので、カップを受け取ってひと口。紅茶じゃなくてハーブティーだった。ミントの香りが爽やかでとても飲みやすい。レモンバームとか入っているのかな?

 カウルは、最近ドライハーブのブレンドにもちょっとこだわっているんだよね?


「うん。エディは王様になんでもいいって言ってくれたけど……やっぱり、気に入ってもらえるものにしたいからさ?」

「でやんすねぇ? 何種類持っていきやす?」

「うーん。揚げメンチカツバーガーは決まったし……揚げ物連チャンはくどいから、卵サラダサンド。あと、甘いので悩んでる」

「甘いのでやんすか?」

「ベタがいいだろうけど……あんぱんは小豆がまだこっち来てから見つけてないし」

「あんぱん?」

「美味しいんだよ。僕とお師匠さんのいた国だと、定番の甘いパン。あんこって中身が最高なんだー。パンと一緒に食べるとね!」

「……ごくり」

「けど、肝心の豆がね」


 説明したら、カウルが食べたそうになったけど……材料がないとわかるとスライムの体がぺしょってなっちゃった。すぐにヨシヨシしてあげたけど。


「……材料でやんすか」

「他の豆でも出来なくないけど……出来れば、小豆って豆の方がいいし」


 専門学生になる前……まだ高校生くらいだったかな?

 お母さんが小豆炊くの好きだったから……手伝ってたんだよね? あんぱんのお店のクオリティじゃないけど、家庭らしい作り方で作れたし。あれはあれで美味しかった。

 だから……出来れば作りたいんだけど。

 うーん、とうなっていたら……足音が聞こえてきた。お風呂上がりのラティストが来たのだ。タオルで適当に髪拭きながらだけど……未だ諦めていない冒険者のお姉さんとかが見たら、卒倒する光景だ。水も滴る良い男ってやつだから。


「……まだ悩んでいたのか?」

「うん。甘いパンで悩んでて」

「? 今出しているのではダメなのか?」

「悪くないけど……出来れば、新しいものがいいかなって」

「ケン兄さんが、『アズキ』って豆が欲しいようなんでやんすよ」

「……アズキ?」

「うん。甘くて美味しいパン作るのにね」


 エンドウ豆みたいなのは市場にもあるから……白あんでもいいけど。やっぱり、日本人なら小豆が良い。

 でも、日にちもそんなにないから……妥協するしかないなあって思っていると。

 ラティストが僕の前に来て、手を差し出した。


「……これか?」


 ラティストの手の中にあったのは。

 普通の豆より、さらに小粒で楕円に近い形の!

 固そうな赤紫色の豆が!?


「あ、小豆!? なんで!!?」

「……精霊の里では主食だからだが?」

「え、精霊のご飯!?」

「粥のようにして食べるが」

「え、え!? ラティスト……もっとある!?」

「……軽く100g程度なら、俺の亜空間収納にはあるが。キロ単位だと……父上らに一応許可がいるな」

「……じゃあ、それでお汁粉作ろう。二人にはまずあんこの美味しさを知って欲しいから!」

「夜食でやんすか!?」

「そう!」


 ここでラティストに満足してもらえば……お師匠さんとこにジェイドも居るし、なんとかなるかも!!
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