上 下
216 / 559

第216話 始まりの場所で

しおりを挟む
 リオーネの外。

 だいぶ久しぶりだけど……門の外に出たら、本当に何もない。

 露店もだけど……建物とかも一切ない。のどかな田舎道っ感じかな?

 春先だから、少し肌寒いけど寒過ぎることはない。

 エリーちゃんに置いて行かれないように、付いて行くと……どんどん街道から奥へと進んで行くんだ。


「エリーちゃん、どこに行くの?」

「ちょっと奥だけど……あ、そうね? ケントには懐かしい場所かもしれないわ」

「僕?」


 どこだろう? と考えながら歩いてみたけど……なかなか思い出せない。

 僕がこの世界に来て……リオーネの街の外以外に行ったことがある場所って言えば。


「着いたわよ?」

「あ」


 エリーちゃんに言われて、思い出せた。

 僕とカウルが……オープンキッチンを使って、初めてポーションパンを作った場所。

 真っ青で大きな湖の前だったんだ!


「懐かしいでしょ?」

「うん! あの時以来だよ!」


 とりあえず、ここでピクニックにしようということになり……ピクニックシート代わりの大きい布を広げて、エリーちゃんととりあえず座ることにした。

 距離が空くのはしょうがない。……僕自身がヘタレで、まだこの子とは恋人でもなんでもないから。


「……あたし、依頼こなすついでだけど。ここには時々来てたの」


 エリーちゃんがそう言ったんだけど……ちょっと寂しそう?

 僕、あの時は助けられたんだって嬉しかったのに……エリーちゃんは違うのかな?

 でも、今の僕があるんだから、エリーちゃんは僕の恩人でもあるのに。


「……どうして?」


 だから、何か役に立てるのであれば聞きたい。


「……弁当忘れたって言ったでしょ? ちょっとのミスで情けないもんケントに見せたし。けど……君は、全然笑わずにポーションパンを食べさせてくれた。その後のこともあったけど、君はずっと変わらない。だから……自分を見つめ直すために、反省しながらここに来るの」


 振り返ってくれたけど、笑顔でも苦笑いだった。


「……エリーちゃんが言ってくれたから、今の僕らがあるんだよ?」

「……きっかけはね? でも、店をあそこまで切り盛り出来ているのは君らの実力」

「……そうだとしても、僕にとってエリーちゃんは恩人だよ」


 大切で、大好きなエリーちゃん。

 今ここで、告白して僕の恋人になってもらうのは簡単かもしれないけど。

 それは……違うと思う。

 お互いの心を交わしたことで、恋って成就するんじゃないかな?

 前世でも、まともに恋をしたことはないけど……恋って、素敵だと思った瞬間が大事だと思うんだ。

 僕の心を……エリーちゃんに伝えたい。

 けど、無理矢理は良くない。

 ここでの思い出を……反省じゃなくて、『嬉しい』に変えたいから。

 僕は、収納魔法から……紅茶の水筒だけじゃなく、ポーションパンも出したんだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:434pt お気に入り:65

勇者のこども

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:1,512pt お気に入り:1

お兄ちゃんと内緒の時間!

BL / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:59

夫の浮気相手と一緒に暮らすなんて無理です!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,199pt お気に入り:2,710

桜天女

恋愛 / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:0

【R18】あんなこと……イケメンとじゃなきゃヤれない!!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:248pt お気に入り:59

BLはファンタジーだって神が言うから

BL / 完結 24h.ポイント:418pt お気に入り:30

処理中です...