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第208話 うじうじ

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 ……ケントに、会いに行けない。

 そう思って……どれくらい経ったのかしら。

 シェリーのランクアップへの打ち上げから、一週間くらい経っている。あたしが部屋に籠っているのもそれくらい。

 ちょうど……軽めの風邪を引いてしまったから、両親にも不審に思われなかった。むしろ、心配されたけど。

 治りかけになってからは……ずっと布団に丸まってばかり。

 考えるのは……あの打ち上げの時の、自分の失態。

 せっかく、シェリー達が計画してくれたのに……あたしが強い酒を飲んで酔っ払い、ケントに抱きつきに行ったことで告白だなんて無理で。

 場の空気を考えても……あの勢いで出来るわけがない。

 そう思って……家に帰ってきて、落ち込んでたら風邪を引いたのだ。反省するにはちょうど良かったわ。


(……けど、こんなにもケントに会わないでいるなんて)


 ちょっと数日留守にするくらいの……遠征ぽい依頼を受けるのも減った。

 毎日……スバルのパン屋で、ケントのポーションパンを買っては食べるのを日課にしてたので……あの味が恋しい。

 今日も……ケントは、店で頑張って営業しているのかしら?

 ラティストは懲りないケバい女冒険者達から、しつこくアピールされてるのかしら?

 カウルは、元気にパン作りの手伝いを?

 考える事は、ケントもだが彼らの事も……。あたしは、彼らがこの街で過ごせるきっかけを作ったとは言え……ただの『友達』だ。

 ケントが……あたしを『女』としては、見てくれないって……ほとんど確信している。だって、彼は男女問わず優しいから。


「エリー? あなたにお客さんよー?」


 もんもんとしていたら、母さんが来たわ。

 お客……と聞いて、『ケント!?』と思ったけど。

 母さんが案内してくれたのは、シェリーとトラディスだったわ。あと、もうひとりは知らない男。


「もう、エリー! あなたも風邪なら教えてよ!!」


 シェリーはちょっと怒っているが、可愛く頬を膨らませていたわ。


「……ごめん。……も?」

「ケントさんも風邪引いていたのよ! あなたよりちょっと辛そうだったけど」

「……ケントも?」


 辛そうって、今シェリーが言ってたが……大丈夫だろうか?

 カウルとラティストがいるとは言え……ケントはポーションパン屋の要だ。おそらく、店は休んでいるにしても。

 ケントが辛い時に……あたしは、何をうじうじしていたのだろう!!


「君がエリーか? 見事な赤毛だな?」


 忘れかけてたが、もうひとり居たのだった。

 紫の髪に、それなりに顔のいい男。

 チャラい感じだけど……どこかで見たような?

 自己紹介してもらうと、エディって名前で。

 すぐに、ケントが大事な友達だって言っていたのを思い出したわ!!
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