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第98話 対象者の葛藤

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 あからさま過ぎんだろ!?


(……レイザーの奴)


 トラディスと段取りを組んだのは明白だが……いきなり、惚れたと再認識したばかりの女と、二人きりで出かけさせるか?

 シェリーは……嫌がってはいなかったが。半分、レイザーとトラディスの後押しで追い出された勢いもあるだろう。

 リオーネの街を、正直なところ……ほとんど出歩いていないのは本当だ。

 ギルド、宿泊の部屋、ケントのパン屋。

 だいたいそれで回るだけで十分だと思ってた。あとは、鍛錬以外にメンバーで城門街の討伐依頼をこなす日々。

 それはシェリーと再会する以前と変わりなかった。

 と言うルーティーンを……先にレイザーが崩してきた。

 俺が奥手過ぎて、シェリーに気持ちを言えねぇのにヤキモキしてたんだろうな?

 けど、リオーネに居るのはシェリーの方が長いのと、俺より断然小柄なこいつと逸れないように……あと、確認もしたかったが、手を出すように言った。

 握れば、予想以上に華奢な手に……これが、闘士としての手か? と少し信じられなかった。下手すれば、そこいらの女と変わりないくらい……しかし、手のひらはきちんと固かった。やっぱ、戦士のひとりなんだなとわかったが。


「案内してくれよ、シェリー」


 こいつと手を握るだなんて、村で生活してたガキの頃以来だ。

 あの頃は、俺も相当ガキで……手を繋ぐのに意味はなかった。ただこいつを置いていきたくなかっただけで。

 けど、今は違う。

 俺を追いかけて、俺と並んで強くなりたいと言ったこいつの事を……メンバーに加入させただけでなく、向き合いたいと思った。

 幼馴染みだけじゃなく、ひとりの男として。

 シェリーも……同じ気持ちなのかは半信半疑な部分はあるが。

 手を握っても、リンゴのように真っ赤になっただけで……嫌とは思われてねぇようだ。


「う、うん! どう言うとこ……行きたい?」

「んー……腹はあんま減ってねぇしな。シェリーは?」

「わ、私も特に」

「んじゃ、ぐるっと回るか? リオーネは城下街だから広いんだろ?」

「うん!」


 ちょっとずつ強張りが薄れて行く。

 こうして、鍛錬で組み手するとか討伐で注意点言う以外で……シェリーと話し合うのは、実は初めてじゃねぇか?

 トラディスへ半分嫉妬してて……肝心な部分、見てなかった自分に少し呆れた。なんで、こいつ自身の事を見ていなかったんだと。

奥手過ぎんだろ、と我ながら情け無い。

 なら、ともう一度繋いだ手を握ってから……俺達はリオーネの街並みを見て回ることにした。
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