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第66話 彼の名は

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「はい。ですが、効能以外にも普通のパンとしても売っていますので問題ないです」


 いや!? 笑顔全開で答えてくれるけど!!?

 そこは違うから!! と思わず、ツッコミを入れたくなった!!


「君!? ポーション自体が流通不足のこの時世に、薬品ではなく『食べ物』で存在しているんだぞ!!? どう言う仕組みで製作しているか、私自身も気になってきたと言うのに!! そうも無償で他人に与えていいのか!!?」


 勢いでまくし立ててしまったが……言いたいことが言えてスッキリ出来た。

 肩で大きく息を吐いたが……目の前の男は、特に驚かずにキョトンとしているだけだった。


「えっ……と、お客さん。お兄さんは……錬金術師さん、ですか?」


 今の発言で察してしまったかもしれんが、言い訳は出来んのでこの際きちんと言うことにした。


「……ああ。ヴィンクス=エヴァンスと言う。君も錬金術師か何かか?」

「……ヴィンクスさん? いえ、僕はただのパン職人ですけど」

「パン、職人?」


 それだけで、パンの製造はともかく……ポーションを食べ物に出来る? だと?

 やはり、転生か転移でチートのような特典を付与させられたのだろう。しかし……目の前のパンを鑑定出来るスキルがないため、どのような効能があるかは不明だが。


「……騒がしいな」


 なんか来た。

 ものっすっっごい、美形来た!!?

 お前がチートな存在だろうと言っていいくらいの、顔面度がめったんこ高い奴が来た!!?


「あ、ラティスト。さっき言ったお客さんだよ」

「ら……ラティスト?」


『ラティスト=ルーア=ガージェン』。

 この世界の創世期に関わるとも言われた、創始の大精霊の異名を持つ存在と同じ名前?

 まさか、美形過ぎるのはその異名を持つからか!?

 本人だとしたら、なんでこんな城下街の一角でのほほんとしているんだ!?


「はい。僕の仕事仲間……えっ、と一応副店長です」

「……えぇ?」


 こんな美男子が居たら、接客とか無茶んこ大変では?

 面食いの女共とかが特に……まあ、経営が成り立っている時点で、大丈夫そうだが。


「…………錬金術師か?」


 ひと目で見抜いた?

 ステータスを見られたのか?

 スキル持ちだろうが、大精霊だろうが……不躾な態度とは思わなかった。この店自体が特殊だからな?


「……ああ。一応、A級ポーション屋を開いている。ヴィンクス=エヴァンスと言う」

「ヴィンクス……? ロイズから聞いたことがあるな?」

「あ、思い出した! 幼馴染みさん?」

「……そうだ」


 客は限らせてもらっているが、それでも『A級』の看板をつけている我が店。

 転生してから、自分也にポーションの流通を図ろうとして十数年かけてきたが……つい最近、一般客の客足が遠のいていたのだ。

 それが……このライバル店とも言える、『スバルのパン屋』。わざわざ来たのは、敵情視察と言うわけだ!

 幼馴染みのロイズが長年抱えていた、『老化の呪い』をあっさり解呪した上に、パンの旨さをこれでもかと語って飯テロしてきたからな!!?
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