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第65話 偵察からお客に

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 転生? トリップ??

 ラノベなどの用語が浮かぶが……目の前の男は、私の様子を見ても気づいていないのか不思議そうに首を傾げるだけだった。


「……どうかしましたか?」

「い……いや」


 しかし……無視するわけにはいかない。

 今日は、偵察に来たのだ!

 新進気鋭である、若手の錬金術師とも言える存在が……私のポーションや回復薬を遥かに上回っていると言う事実を!!


「あ、もしかして……お腹空いていますか?」


 私の胸中を全く察して……いるようでいない発言。

 実際のところ……腹はめちゃくちゃ空いていたので、窓ガラスに張り付いていた理由はあったが。


「あ、ああ……」

「じゃ、いきなりですみませんが……少しお願いしたいことがあるんですよ」

「お願い?」

「パンの味見です」

「!?」


 腹が空いている今……なんと言う魅力的な誘いなんだ!?

 偵察……と言う名目を忘れそうになったが、すぐに気を引き締めた。


「……いいのか?」

「はい。従業員だけだと、三人だけしかいないので余っちゃうんですよ」


 その人数であれば、試食を繰り返すとすぐに満腹になるのは頷ける。

 しかし……亜空間収納の魔法を会得していれば、腐ることもないのに。この男は、会得していないのか? 他の従業員も。

 気にはなったが、せっかくの誘いを無碍にしたくはない。

 男の後に続いて……中に入ってみたが。


(……懐かしい)


 どの棚にもある、『日本のパン』。

 並べ方なども、前世で時折買いに行った……まるで町のパン屋だ。

 あんぱんとかは見当たらないが、冷蔵の魔導具の中には……普通の三角になっているサンドイッチからフルーツのサンドイッチまで!

 惣菜パンも、よく見るとコンビニなどの商品を真似している部分はあるが。

 まさしく、日本のパンだった。


「お客さん、こちらです」


 店内を眺めていると、さっきの男がトレーに載せたパンを持って……私の前に立った。

 見た目だけだと、何か揚げたゲンコツより大きい塊にしか見えない……が。

 前世は日本人だった、私はこれが何かを知っていた!?


(か……カレーパン!?)


 この世界に、カレーは存在しないはずなのに!?

 パン粉をまとわせて揚げたそのパンは、間違いなく『カレーパン』だったのだ!?


「揚げたてではないですが、どうぞ」

「……いい、のか?」

「はい。新規のお客さんの感想も伺いたいですし」

「そうじゃなくて……ここは、ポーションのパンを売るのだろう?」


 いきなり、初対面……かつ、偵察に来た同業者にこの対応。

 彼は……私以上に、日本人らしい気遣いで接してくれるが。

 出来過ぎた人間じゃないだろうか?
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