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第64話 彼は偵察

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(……気になる)


 非常に、気になる!!

 最近……本当に最近なのだが。

 非常に……珍しい『パン屋』が出来たらしい。

 ただのパン屋ではなく……あのレイスの常駐場所になっていた『元パン屋』が、またパン屋になったのだ。

 店主は違うが……そいつの作るパンは、『普通』ではないらしい。

 今まで……見たことも聞いたこともない、『ポーションのパン』と聞く。

 回復薬の流通が乏しい、この時世に……なんの冗談かとは思ったが。

 私の古馴染み……本人は幼馴染みと言い張るが……奴とも関わりが強いらしい。生産ギルドのオークションでもかなりの値段で落とされているようだ。

 それとは別に……店では破格の値段で売り買いされているようだが。

 何故、そのようになっているのか……これは、偵察だ偵察!

 ほぼ同業者である私の商売上がったりの理由ではない!!

 単なる、興味……からだ!!


「……………………う、美味そう」


 玄関口の横は、中が見えやすいようにガラス窓が大きく設置されているお陰で……店内が見えるのだ。

 棚に並んでいるのは……ポーションらしい様々なパン。

 ポーションであるはずなのに、このような無防備に陳列させていていいのか?

 しかし……店もだが、あちこちに精霊の魔力を感じる。どこからか、精霊の加護を得たのか?

 これほど感じられるのであれば、古馴染みの冒険者ギルドのマスターが関わっているかもしれん。

 ほぼ引きこもりの私だが、情報収集のために色々手段は興じているからな?

 しかしながら……並んでいるパンは、どれもが美味そうに見えた!

 久しく、きちんと食事をしていないがゆえに……より一層美味そうに見えたのだが。


「……ん?」


 よく見てみると……見覚えのある商品ばかりだ。

 どこで……と、記憶を探ると、すぐに思いついた!!


(に、日本……のパン!?)


 惣菜パン、菓子パン、フランスパンが……普通に陳列されている!?

 何故こんな異世界に!?

 私は……転生者だ。

 前世の死因はあまり覚えていないが、気がついたらこの世界に生まれ落ちていた。

 その秘密は、古馴染み達にも……極力秘密にしてはいるが、言いふらすと異常に目立つ理由なため……言っていないのだ。

 それはともかく、何故異世界である『日本』のパンがこんなところに!?


「あ、いらっしゃいませ! 入られますか?」


 ジーッと、中を覗いていたせいで客だと思われたのだろう。

 店員らしき男が、扉を開けてくれたのだが。

 その顔立ちが……黒髪茶目の、『日本人』だったのだ!!?
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