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猫人 参

第3話 大将の誕生日

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 楽養らくように行くのは夕方からなので、もう少し時間がある。

 コーヒーとお菓子で、まったりティータイムを過ごす。元彼ともこんな時間を過ごした記憶はほとんどないので……美兎みうは本当に嬉しかった。

 大好きな人と、ゆっくり過ごすだなんて……自分勝手だった青春時代を思うと考えられなかったから。無様な姿を見せたとは言え、一年前に火坑かきょうと出会わなければ、交際するまで進むとは思わなかった。

 今は響也きょうやの姿だが、美貌に磨きがかかった今の姿も素敵だ。猫人もどちらも火坑に変わりないから……美兎は本当に火坑に惚れ込んでいるわけで。

 水出しのアイスコーヒーをゆっくり飲んだ後、一緒に片付けをしてからふたりで手を繋いで楽養に向かった。服も火坑がアピールしたいと言う理由でデパートで買ったものに着替えて、通りを歩くたびにあちこちから微笑ましい笑顔を向けられたのだ。


(……火坑さんの恋人だって、認められてるのかな??)


 これまで、楽庵らくあんに通うまでも……道端のいるあやかしらから厚意的な笑みを送られることはあった。直接確かめたわけではないが……こうして、界隈の中を火坑と手を繋いで歩くだけで……服も新調したから、あやかし達は感じ取っているのだろう。

 人間でなくとも、生きている存在に変わりないのだから、種族違いで差別するのもおかしいことだ。ここに来るようになって、美兎は改めてそのことを学んだ。

 楽養にはすぐに到着したので、火坑が引き戸を開けてくれると。


『誕生日おめでとう!!』


 小さめのクラッカーがいくつも響き渡り、火坑もだが美兎にもテープやモールが引っ付いてしまう。

 店内は既にすし詰め状態で、楽養の面々もだが真穂まほや兄の海峰斗みほと沓木くつき達を含める会社のメンバーやその恋人達もいた。美作みまさか芙美ふみも居て、いつもの常連メンバーも揃ったわけである。


「弟子兼義息子の祝いだ。今日は遠慮なく食っていってくれや」


 霊夢れむはさっそくと言わんばかりに、鯛の塩釜焼きを蘭霊らんりょうと一緒に持ってきたのだった。


「……師匠、やり過ぎですよ」
「たまにはいいだろ? 刺身よりも祝い向きだ」
「いーから、火坑は嬢ちゃんと座りな!」


 蘭霊からカウンターに座れと言われてから……絶対高そうなシャンパンを開けられ、花菜はななが持ってきたグラスに全員分注がれた。


「改めて~……火坑の大将、誕生日おめでとう!!」


 と、乾杯の音頭は真穂が仕切り、こちらが苦笑いしながらも賑やかなパーティーの始まりとなるので。美兎は火坑と少し笑い合うのだった。
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