166 / 204
のっぺらぼう
第4話 心の欠片『かぼちゃと海老の春巻き』
しおりを挟む
かぼちゃで揚げ物……コロッケや天ぷらを作っているのだろうか。
突っ伏していた顔を上げて、少しカウンターの向こうを覗いてみると……油鍋の中には細長い春巻きがあったのだ。
「……大将さん」
「はい?」
「かぼちゃで春巻きですか??」
「揚げなくても出来るんですが、美作さんの好みだとこちらかと」
「好きですけど」
かぼちゃの味付けが甘いのかしょっぱいのか。酒の肴にだから後者だろうが……どちらにしても気になってしまう。この猫人の作る料理はなんだって美味しいのだから。特に、心の欠片で作った料理は。
カラッと揚がった、細長い春巻きを火坑は斜め半分にそれぞれカットして……湯気が立つ出来立ての春巻きを、辰也と水緒の前にそれぞれ置いてくれた。
「こりゃ、極上の逸品だ!」
水緒は熱さなど気にせずに、すぐに口に運んでいた。
その後に熱燗をキュッと飲む感じが、物凄く合うと言わんばかりに。
辰也も、少し息を吹きかけて冷ましてから口に運べば。
「ほふ!?」
出来立てなので当然熱いが……嫌な熱さじゃない。揚げ物と言うのは、人間側の飲食店でもテーブルに運んでくるまで多少は冷めてしまう。
だが、ここではほぼ目の前で調理することでその距離が短縮されている。なので、出来立て熱々過ぎて、辰也は何度もはふはふしてしまう。口の中でいくらか冷めてくると、かぼちゃ以外にも海老が入っているのがわかった。
(……美味!?)
かぼちゃはほんのり甘く、海老の風味と塩気。あと食べたことはあるが独特のコクと旨味を感じる。熱燗にも合うが、すぐには思い出せない。
首をひねっていると、火坑の方は涼しい笑顔でいた。
「かぼちゃと海老以外の味付けとツナギ代わりに……とろけるチーズを入れてあります」
「!? なるほど」
チーズの味なら納得が出来た。少し冷めたがまだ熱い春巻きを口に入れれば……たしかに、チーズの味がした。強過ぎず弱過ぎず、かぼちゃと海老を引き立てる役割をしていた。これがすぐにわからないとは……と辰也は少し恥ずかしかった。
「かぼちゃとチーズの組み合わせは相性がいいですしね? 現世では、特に女性がお好きな場合が多いですが」
「……あの人も好きなのかな」
昼間、ある意味一目惚れしてしまったかもしれない……あやかしだと思う女性。
ほんわかした雰囲気と、カントリー風の服装が相まって……辰也には可愛く目に映った。
だが、彼女がこの店の常連だとわかっても……いつ会えるだろうか。その事がだんだんと気になってきた。
「こーんばんは~!!」
いくらか悲しい気持ちになっていた時。
可愛らしい女性の声に、辰也は思わず椅子から転げ落ちそうになった。
突っ伏していた顔を上げて、少しカウンターの向こうを覗いてみると……油鍋の中には細長い春巻きがあったのだ。
「……大将さん」
「はい?」
「かぼちゃで春巻きですか??」
「揚げなくても出来るんですが、美作さんの好みだとこちらかと」
「好きですけど」
かぼちゃの味付けが甘いのかしょっぱいのか。酒の肴にだから後者だろうが……どちらにしても気になってしまう。この猫人の作る料理はなんだって美味しいのだから。特に、心の欠片で作った料理は。
カラッと揚がった、細長い春巻きを火坑は斜め半分にそれぞれカットして……湯気が立つ出来立ての春巻きを、辰也と水緒の前にそれぞれ置いてくれた。
「こりゃ、極上の逸品だ!」
水緒は熱さなど気にせずに、すぐに口に運んでいた。
その後に熱燗をキュッと飲む感じが、物凄く合うと言わんばかりに。
辰也も、少し息を吹きかけて冷ましてから口に運べば。
「ほふ!?」
出来立てなので当然熱いが……嫌な熱さじゃない。揚げ物と言うのは、人間側の飲食店でもテーブルに運んでくるまで多少は冷めてしまう。
だが、ここではほぼ目の前で調理することでその距離が短縮されている。なので、出来立て熱々過ぎて、辰也は何度もはふはふしてしまう。口の中でいくらか冷めてくると、かぼちゃ以外にも海老が入っているのがわかった。
(……美味!?)
かぼちゃはほんのり甘く、海老の風味と塩気。あと食べたことはあるが独特のコクと旨味を感じる。熱燗にも合うが、すぐには思い出せない。
首をひねっていると、火坑の方は涼しい笑顔でいた。
「かぼちゃと海老以外の味付けとツナギ代わりに……とろけるチーズを入れてあります」
「!? なるほど」
チーズの味なら納得が出来た。少し冷めたがまだ熱い春巻きを口に入れれば……たしかに、チーズの味がした。強過ぎず弱過ぎず、かぼちゃと海老を引き立てる役割をしていた。これがすぐにわからないとは……と辰也は少し恥ずかしかった。
「かぼちゃとチーズの組み合わせは相性がいいですしね? 現世では、特に女性がお好きな場合が多いですが」
「……あの人も好きなのかな」
昼間、ある意味一目惚れしてしまったかもしれない……あやかしだと思う女性。
ほんわかした雰囲気と、カントリー風の服装が相まって……辰也には可愛く目に映った。
だが、彼女がこの店の常連だとわかっても……いつ会えるだろうか。その事がだんだんと気になってきた。
「こーんばんは~!!」
いくらか悲しい気持ちになっていた時。
可愛らしい女性の声に、辰也は思わず椅子から転げ落ちそうになった。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説

救国の巫女姫、誕生史
ぺきぺき
ファンタジー
霊や妖による事件が起こる国で、それらに立ち向かうため新設された部署・巫覡院(ふげきいん)。その立ち上げに抜擢されたのはまだ15歳の少女だった。
少女は期待以上の働きを見せ、どんどん怪奇事件を解決していくが、事件はなくなることなく起こり続ける。
さらにその少女自身にもなにやら秘密がいっぱいあるようで…。
新米巫覡がやがて救国の巫女姫と呼ばれるようになるまでの雑用係の少年との日常と事件録。
ーーーー
毎日更新・最終話まで執筆済み
~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、謂れのない罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました
深水えいな
キャラ文芸
明琳は国を統べる最高位の巫女、炎巫の候補となりながらも謂れのない罪で処刑されてしまう。死の淵で「お前が本物の炎巫だ。このままだと国が乱れる」と謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女として四度人生をやり直すもののうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは後宮で巻き起こる怪事件と女性と見まごうばかりの美貌の宦官、誠羽で――今度の人生は、いつもと違う!?
バツ印令嬢の癒し婚
澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
鬼と対抗する霊力を持つ術師華族。
彼らは、その力を用いてこの国を鬼の手から守っている。
春那公爵家の娘、乃彩は高校3年であるにもかかわらず、離婚歴がすでに3回もあった。
また、彼女の力は『家族』にしか使えない。
そのため学校でも能なし令嬢と呼ばれ、肩身の狭い思いをしていた。
それに引き換え年子の妹、莉乃は将来を有望視される術師の卵。
乃彩と莉乃。姉妹なのに術師としての能力差は歴然としていた。
ある日、乃彩は学校の帰り道にとてつもなく強い呪いを受けている男性と出会う。
彼は日夏公爵家当主の遼真。このまま放っておけば、この男は近いうちに確実に死ぬ。
それに気づいた乃彩は「結婚してください」と遼真に迫っていた。
鬼から強い呪いをかけられ命を奪われつつある遼真(24歳)&『家族』にしか能力を使えない能なし令嬢と呼ばれる乃彩(高3、18歳)
この結婚は遼真を助けるため、いや術師華族を守るための結婚だったはずなのに――
「一生、側にいろ。俺にはおまえが必要だ」離婚前提の結婚から始まる現代風和風ファンタジー
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
迷子のあやかし案内人 〜京都先斗町の猫神様〜
紫音
キャラ文芸
やさしい神様とおいしいごはん。ほっこりご当地ファンタジー。
第8回キャラ文芸大賞にて〈ご当地賞〉を受賞しました。
応援してくださった皆様、ありがとございました。
*あらすじ*
人には見えない『あやかし』の姿が見える女子高生・桜はある日、道端で泣いているあやかしの子どもを見つける。
「“ねこがみさま”のところへ行きたいんだ……」
どうやら迷子らしい。桜は道案内を引き受けたものの、“猫神様”の居場所はわからない。
迷いに迷った末に彼女たちが辿り着いたのは、京都先斗町の奥にある不思議なお店(?)だった。
そこにいたのは、美しい青年の姿をした猫又の神様。
彼は現世(うつしよ)に迷い込んだあやかしを幽世(かくりよ)へ送り帰す案内人である。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる